公務員の駆け込み退職が問題に
全国的に公務員の駆け込み退職が問題になりました。きっかけは2013年1月末までに退職をしなければ、退職金額が引き下げられる、という条例を定めた都道府県があったためです(これは国家公務員の退職金水準との調整を図る取り組みのひとつです)。それに応じて年度末を待たずに辞めた先生や公務員がいて、彼らの仕事が年度途中で放り出されることから、これを責めるマスコミやネットの論調が現れ、首長や大臣まで「退職するな」と要望する事態となりました。しかしこの問題、退職金と企業年金の専門家から言わせれば、「駆け込み退職を責めること自体がバカらしい話」です。特に組織の上の人間が、辞める人を責めるとしたら「労働の強制を促すほとんど犯罪的行為」ですし、こうした発言をする上役自分に責任がある制度なので「自分が愚か者だと宣言している」ようなものです。
とはいえ「先生なんだから3月末までいるべきだ」という感覚を抱く人は多いことでしょう。それはなぜか、今回の問題を整理してみましょう。
まず、人がいつ辞めようが調整するのが組織の仕事
根本的問題としていえるのは、「人がいつ辞めてもいいように調整するのが組織の仕事」ということです。定年退職や早期退職だけが退職ではありません。自己都合退職もありますし、病気やけがでの急な休職もあります。産休・育休などもあります。組織にとって人の入れ替わりは日常茶飯事です。こうしたとき「個人がいきなり辞めるのが悪い」という組織の上の人間の台詞はすべて「言い訳」です。平時においてどんなときにも組織が維持できるように備えておくのが組織の大切な仕事(管理職の役割といってもいい)だからです。
先生でも役職者でも、年度内に辞めることはありますし、仕事に個人が負うべき責任について、個人に多すぎる役割を依存している仕組みそのものが本来は問題なのです。
警察内の早期退職について「治安が維持されるのか心配」と退職者を非難するコメントをしている人もいますが、そんなものは組織でやりくりするだけの話であり、本来組織が背負うべき責任を個人に押しつけている発言といえます。
どんな理由でも「辞める自由」を制限する資格はない
次に、「辞めるべきではない」と言う人は、「あなたには辞める自由がない」と退職希望をした人に強要をしている事実をもっと重く考えるべきです。人には、仕事を辞める自由があります(総理大臣ですら辞める自由はある)。「先生だから」とか「公務員だから」という枕詞をつけて、辞める理由には制限があってもしかるべき、という人もいますが、マイナスの経済的条件(年度末までいると経済的不利益になる)を押しつけていまで、強制労働をさせる権利はないはずです。「生徒に不安が」と揶揄する声もありますが、老後の家計における、定年後の20年もの生活に影響する選択を今したのだと、正面きって説明すればいいのです。
「お金より生徒との時間が重要」とかいう人は現実の人間の生活を無視しています。きれいごとを教えるだけが学校の仕事だと思っているのでしたら、そういう人が子どもの生きる力を奪っていると考えてほしいくらいです。
「辞める自由」について、上役に当たる立場の人間が制限しようとしていることも今回の大問題です。埼玉県知事は任期を全うして欲しいと述べましたが、半強制的かつ感情に訴えるやり方で、部下にあたる個人に対して経済的不利益を強いています。最終的には文部科学大臣まで「誇りを持って仕事をするべき」で「辞めるべきではない」とコメントするに至りましたが、彼らの本来の仕事は、辞める人を擁護することなのです。強制労働を容認するような発言をするなど、良識を疑います。
感情論はこういうケースでは敵です。感情論というのはたいてい偏っていて、自分はその立場にないから好きなことを言います。こうした「いかにも正しいように見える」言説には疑ってかかることが大切です。
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