冨田勲×宮沢賢治×初音ミク 『イーハトーヴ交響曲』
アンコール曲として 「リボンの騎士」「青い地球は誰のもの」も収録
御年80歳になる今も創作の意欲は衰えず、2012年11月に世界初演された『イーハトーヴ交響曲』ではなんと初音ミク(!)と約300人に及ぶオーケストラ・合唱が共演。その歴史的な初演を記録したのがこのCDです。
“イーハトーヴ”といえば作家・宮沢賢治により心象世界中の理想郷として想像された岩手県。
賢治により作られた曲「岩手山の大鷲」の引用、「風の又三郎」などテキスト作品からも引用が行われ、また、冨田さんが若き日に旅中で見た岩手県の印象と重なったフランスの作曲家ヴァンサン・ダンディによるメロディアスな『フランスの山人の歌による交響曲』、ラフマニノフの交響曲第2番3楽章も用いられるなど、難解な現代音楽とは一線を画す内容です。
そして注目はやはり初音ミク。音声合成ソフトVOCALOID(ボーカロイド)により生み出されるヴァーチャルアイドルですが、第3楽章の「注文の多い料理店」から登場(完璧にオーケストラに合った驚異的な歌だけではなく、会場ではダンスも披露された)。チャップリンが『モダン・タイムス』で歌った『ティティナ』が意識され「あたしは初音ミク かりそめのボディ 妖しく見えるのは かりそめのボディ あたしのおうちはミクロより小さく ミクロミクロミク ミクロミクのおうち パソコンの中からは出られないミク 出られない 出られない 出られない」と歌われます。それは「注文の多い料理店」から出られなくなる2人の若い紳士と重ね合う。
シンセサイザーの世界的権威が初音ミクを使う、というのは考えてみれば自然ですが、キッチュに思えなくもない。しかし、曲を聴くと、実態を持たないヴァーチャルな初音ミクの存在は、賢治の世界にしばしば登場するたとえば風の又三郎やカムパネルラなど『異界からの使者』を連想させます(実際、冨田さんは初音ミクに『異次元から来た人間』と賢治の妹トシを象徴させたと発言しています)。
また「雨ニモ負ケズ」の引用は、岩手をはじめ震災の被害を受けた東北の方々への思いが込められています。
宮沢賢治と冨田勲と初音ミク――。聴けば聴くほどに時間を超えた独特の深い世界観に引き込まれる比類なき大作です。
第1楽章:岩手山の大鷲<種山ヶ原の牧歌>
第2楽章:剣舞/星めぐりの歌
第3楽章:注文の多い料理店
第4楽章:風の又三郎
第5楽章:銀河鉄道の夜
第6楽章:雨にも負けず
第7楽章:岩手山の大鷲<種山ヶ原の牧歌>
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