公的年金より企業年金問題が気になる
「厚生年金基金制度に関する専門委員会」というのが厚生労働省で開かれています。これは、企業年金制度のひとつである厚生年金基金について、昨年のAIJ問題なども受け、取り扱いを議論しているものです。AIJ問題については、2012年に何度か記事をまとめていますが、その余波はまだ続いているわけです。私も委員会の議論を生で傍聴していますが、議論の方向性としては「運用状況のよろしくない厚生年金基金は解散したほうがいい」という流れが生じており、抗しがたい雰囲気です。どうやら2013年2月1日には最終報告案が示され、この春の通常国会に向けて法案の準備がスタートするようです。
自分に関係がないと思っている人も多いかもしれませんが、この問題は約440万人に影響しかねません(年金受給者を含めるともっと多い)。また、厚生年金基金だけの問題だと考えるのは早計です。むしろこの問題が日本における退職金や企業年金問題の方向を位置づける可能性すらあります。
公的年金については社会保障国民会議が議論を行うとしていますが、当面は健康保険制度や介護保険制度の改革について集中して議論されるようで、年金問題はその後となっています。昨年法律改正した内容がこれから実施されるわけですから、あまり急ぐ必要がない、ということかもしれません。
いずれにせよ、この2013年・春の注目点は公的年金より企業年金問題だと思います。今回はチェックすべきポイントを3点ご紹介します。
<ポイント1>
厚生年金基金の「代行」制度はどうなるか
まず、最初に気になるポイントは厚生年金基金の代行部分の取り扱いです。厚生年金基金というのは、企業年金制度と位置づけられるものの、国の厚生年金保険料の一部を民間サイドで積立・運用・給付する仕組みになっており、この部分(代行部分という)に加えて、独自の企業年金部分(プラスアルファ部分とか上積み部分、加算部分などといわれる)の2階建てで成り立っています。
しかし、運用環境が悪化した影響も受け、国の厚生年金相当分に必要な資金すら準備できていない状態であることが問題となっています。厚生労働省資料によれば、2012年3月の決算時点で210基金(厚生年金基金の37%)は国の代行部分に見合う資産を持っていません。
ただし、リーマンショック直前には財政悪化が深刻な厚生年金基金は全国に3基金しかなく、全国でほとんど積立不足はなかったことを考えると(2006年度末では300億円しか代行部分については積み立て不足がなかったが2011年度末は6100億円と急増した)、運用環境の悪化、特に上下の変動幅の拡大が著しい時代に移った今、制度の運営が難しくなっていることは事実です(もともと、たくさんの余裕を積み上げられる仕組みではない)。
これ以上の悪化が国の厚生年金財源に与える影響を懸念し、代行部分を国に返上させる方向性が委員会では示されていますが、そうなると現在、独自の企業年金部分すら割り込んでいる厚生年金基金では現役、OBともに給付がカット(おそらくゼロ)になってしまいます。
国の厚生年金の財源にマイナスを与えないため急げば、多くの中小企業の会社員にひとり100万円くらいの給付カットを求める可能性もあります。時間を遅らせて被害が拡大すれば、6100億円の積み立て不足以上が国の穴埋め負担となる恐れもあります(ただし、中小企業に負担を求めるため、そのまま国の穴埋め負担にはならない。また、無理に解散を迫らず時間を待つうちに株価が戻れば、国も会社員も痛まずにすむ可能性があるため、急げばいい、とも限らない)。
委員会の報告案がどのような方向に向かうかは、まもなく設立50年になる厚生年金基金の今後を占う鍵となるでしょう。
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