在宅介護が絶対に正解とは限らない
介護場所については一時的な感情だけで判断せず、最も無理がないものをじっくり考えましょう
一般的に、介護が必要になったお年寄りは「住み慣れた自宅で暮らしたい」と希望することが多いもの。元気な頃にはいつも「身体が弱って介護が必要になったら、自分から老人ホームに入って、子どもたちには迷惑をかけないから」と言っていたような人でも、いざ要介護状態になると実行に移せないことがほとんどのようです。
また最近では、増え続ける社会保障費を抑制するために、国を挙げて「病院から施設へ。施設から在宅へ」という流れが強まっています。
では、在宅介護こそが正しい介護の姿なのでしょうか?
私は必ずしもそうだと思いません。要介護者やその家族を取り巻く、さまざまな状況に合わせて介護場所を選ぶことが、平均で約5~15年間ほどの長い介護期間を過ごすために重要なのではないでしょうか。
6つのステップに沿って介護場所を考えよう
介護場所を決めるためには、次の6つのステップについて順に考えていくことをオススメします。
ステップ1.要介護者の心身の状態は?(要介護度、障害など)
そもそも「在宅での生活に耐えられる状態かどうか?」を考えることが第一のポイントです。無理をしすぎるのは、要介護者にとっても介護者にとってもプラスになりません。
ステップ2.誰が介護するのか?(家族の介護力)
「介護は1人でなくチームで行う」ことが基本ですが、それでもある程度の役割分担は必要。自ら生活援助や身体介助を行うだけでなく、ケアマネジャーなどと打ち合わせをしたり、介護費用の管理を行ったりする人も必要です。一時的ではなく、継続的に介護を行っていくことが可能かどうか熟考しましょう。
ステップ3.支援体制は整っているのか?(介護保険サービス、地域社会資源など)
家族だけで在宅介護を続けていくのは困難です。介護保険サービスや、地域の自治体やボランティア団体などが提供するサービスなどをどこまでうまく使えるか検討しましょう。
ステップ4.いくらぐらいなら支払えるか?(介護費用と負担能力)
さまざまなサービスを利用するパターンを複数考えて、いくらかかるのかを調べたうえで、親の年金や預貯金などをもとに、現実的にはいくらぐらいなら支払うことができるかを考えましょう。
ステップ5.要介護者にどこで暮らしてもらいたいか?(介護家族の希望)
当然ですが、介護は「される側」より「する側」に負担がかかるもの。ステップ1~4を検討したうえで、家族として親にどこで暮らしてほしいかをもう一度考えてみましょう。
ステップ6.要介護者がどこで暮らしたがっているか?(要介護者の希望)
要介護者が心にハリを持って生きるには、可能であれば希望に沿った場所で暮らせるようにするのがベスト。ただ、要介護者の意向に沿うために、介護家族が大きな負担を背負い続ける状態は長続きしにくいので注意が必要です。
無理をしすぎなくてもよい介護場所を決めよう
大学の先生や高名な医師などが、介護についての講演などで「介護家族は要介護者の心に寄り添い、できる限り希望を聞いてあげるのが良い」といった主旨のお話をされているのを何回か聞いたことがあります。ただ私自身の介護経験や、多くの介護家族の方々との交流から得た経験などからすると、「要介護者の希望最優先の介護」は一種の「きれいごと」のように感じてしまいます。
実際、介護が必要になった親の希望に沿って都会での仕事を辞めて実家に帰って介護を始めたものの、時間の経過とともに親子の仲が悪くなったり、虐待に走ってしまったりという人からの悩みを打ち明けられたこともあります。また日々の介護のストレスから、うつになってしまった人も知っています。私自身も、両親の心身の状態がいつ悪化するかわからないというストレスから解放され、しっかりと眠れるようになったのは両親が認知症のグループホームに入所してからのことです。
今回ご紹介した6つのステップを使って状況を冷静に分析して、無理をしすぎなくてもよい介護場所を決めていただければと思います。
自力で歩けなくなったり、寝たきりになったりなど、必要な介護が変わったら、ステップ1~6の見直しを行うことも忘れないでください。