慢性骨髄炎とは
急性化膿性骨髄炎の診断が遅れたり、不十分な治療により腐骨(血行のない骨)が生じた病態が慢性骨髄炎となります。急性化膿性骨髄炎と無関係に、慢性骨髄炎を生じる場合もあります。外傷、骨折などが原因の場合、細菌感染が骨髄炎の原因となっていますが、放射線が原因となっている場合などでは無菌性骨髄炎とよばれ、細菌が原因ではなく血流の低下により腐骨が発生します。この病態も慢性骨髄炎となります。腐骨が発生した状況が慢性骨髄炎です。
慢性骨髄炎の症状
疼痛、腫脹、浮腫などが骨髄炎の局所症状です。病巣が進行すると骨に接した軟部組織の腫脹、皮膚の発赤、熱感が生じます。瘻孔(膿みの皮膚への出口)が皮膚の穴として観察されることがあります。瘻孔がはっきりしない場合もあります。皮膚の外への浸出液が認められる場合が多いです。左下腿の慢性骨髄炎。腫れた皮膚の中心に瘻孔という穴が認められます。ガーゼに浸出液が認められます。
骨髄炎の影響が全身に波及した場合、発熱、食欲不振、体重減少などの症状が発生します。
慢性骨髄炎の原因
■血行性感染皮膚の化膿病巣、上気道感染などが原因で血液の中の細菌が血流を介して骨髄に感染が生じる場合です。基本的には小児に発生します。
■病巣からの直接波及
皮膚、皮下組織の化膿病巣から連続的に骨、骨髄に感染が発生した場合です。
■直接感染
開放性骨折、骨の手術の術後に発生する骨髄炎で、通常は小児では比較的稀ですが、成人では交通事故後などでよくみられます。
■人工物
人工関節、人工骨などに感染が生じることがあります。手術の際の直接感染、血行性感染により他の部位からの細菌感染の両方の可能性があります。
■放射線治療
放射線治療に伴う血行低下により無菌性骨髄炎が生じます。
■結核
結核菌は高齢者の脊椎に高率に骨髄炎を発症します。
■虫歯 歯槽膿漏 副鼻腔炎
顎骨や頭蓋骨に骨髄炎を引き起こすことがあります。
■糖尿病 人工透析
糖尿病、慢性腎不全などの病態では免疫力の低下により、骨髄炎が引き起こされることがあります。
慢性骨髄炎の診断
■単純X線(レントゲン)急性骨髄炎の初期では異常所見は認められませんが、慢性骨髄炎に移行するとレントゲンの所見がはっきりしてきます。
単純X線右橈骨単純X線正面像。腐骨が認められます。
単純X線写真は放射線被爆量も少なく、費用もわずか。その場で撮影も終了し当日説明を受けられるので、整形外科では必ず施行します。
■MRI
MRIは磁気を使用して人体の断面写真を作成する医療用機器です。被爆がないのが最大の特徴です。欠点は費用が約1万円程度と高額な点や、狭い部屋に15分間ほど閉じ込められて、騒音が強いことです。脳外科の術後で体内に金属が残っている人、心臓ペースメーカー装着の人、閉所恐怖症の人などはMRI検査が無理なので、CT検査を行います。CT検査の費用は5,000円程度で、MRIより安くなりますが、被爆があります。単純X線では診断不可能な初期の異常をMRIで診断することが可能な場合があります。
単純MRI像。骨髄炎の炎症の範囲がよく描出されています。
どちらも少量の放射線同位元素を注射して、骨髄炎の部位に同位元素が吸収された画像を撮影します。1回の検査で全身を検査可能な点が特徴。多発性の骨髄炎などではこの検査が必要です。
全身骨シンチ。左大腿骨に放射性元素の集積が認められました。
瘻孔がはっきりしている場合、瘻孔から造影剤(レントゲンによく写るヨードを含む液体)を注入することにより、骨髄炎の範囲が診断可能です。
瘻孔造影。骨髄の状態が診断可能です。
■採血
骨髄炎が全身症状を伴う時、白血球増多、CRP上昇などの検査所見がみられます。
■血液培養
骨髄炎で全身症状を伴う場合、血液の細菌培養で菌を検出することが可能な場合があります。最も多くみられる起因菌は黄色ブドウ球菌です。その他腸球菌、レンサ球菌、インフルエンザ菌、結核菌などが検出されます。
慢性骨髄炎の治療
腐骨が残っているかぎり慢性骨髄炎は完治しません。抗菌薬などの点滴治療で一度軽快しても、高率に再発します。■手術
腐骨摘出術、抗菌薬含有ビーズ充填、持続還流などを施行します。骨欠損、皮膚欠損を生じた場合、骨移植、創外固定、皮膚移植などの手術が追加されます。