我流のピアノで名を馳せた、セロニアス・モンク
ピアニストというくくりはとても広い。なぜならピアノはあらゆる音楽のジャンルにおいて使われる楽器だからだ。そして多くの国の子供たちは、習い事としてピアノに触れているだろう。その指導の仕方はクラシックのやり方であり、多くの人がクラシックの曲をピアノで弾けるというのが、今の時代では普通のことだと思う。
しかしながら、全く指導を受けず、我流でピアノを演奏する人もいるはずだ。学校のピアノを適当に弾く。そこからメロディを生み出す。クラシックから見ればガサツで音楽とも言えないその音楽体験は誰もが体験し、音楽と言われなくとも楽しんでいたはずだ。
その我流を貫き通してプロピアニストとして名を馳せた者がいる。それが私の推す「セロニアス・モンク」というピアニストだ。彼はジャズピアノの名手。我流でピアノをマスターし、彼にしか弾けない、従来のクラシックの演奏方法と全く違った方向性を示した偉人でもある。
彼の演奏方法は独特で、彼の演奏を初めて聞いたものは不思議な感覚にとらわれるだろう。しかし心地良いのだ。そして、緊張感がある。60年代アメリカの当時の黒人(セロニアス・モンクは黒人である)が強いられていた差別問題や、ジャズの演奏の場がドラッグと女と酒と犯罪にまみれていたという背景もあるだろう。
しかし、その演奏は美しい。まさに「掃き溜めに鶴」である。特に、彼のソロ・アルバム「ソロモンク」に収められているボーナストラック「モンクス・ムード」の緊張感と殺気とベーシスト、サックス奏者との間の張り詰めた空気はたまらなく聞くものの精神を刺激するだろう。
ちなみに、サキソフォン奏者はかの有名な「ジョン・コルトレーン」である。セロニアス・モンクの生み出す世界は独特である。クラシックの世界に閉じ込められていたと言っても過言ではないピアノという楽器を拘束具から開放したリベレーターとも言えるだろう。
それだけの価値が、彼にはある。是非、一度聞いてみていただきたい。