突然訪れた上海出店への道
TIME & STYLE上海店。日本のライフスタイルを中国に伝える拠点のひとつとして注目されています。
昨年(2011年)12月に上海出店の打診を受けるまで、自分は中国に行ったこともなく、上海にショップを開くとは想像もしていませんでした。出店を希望されたのは、中国で建築・インテリア雑誌を発行している出版社の王社長です。
吉田龍太郎さん(中央)と広報担当の佐竹さん(左)。
安田さんは18年前に単身中国にわたり、住設関連企業などのコンサルティングを続けてきた方で、日経「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2012」にも選ばれています。中国で鍛えられた彼女の言葉には説得力がありました。しかし加速度的な開発の進む上海のスケール感、スピード感の中では、我々の目指すインテリアの姿は似合わないのではないかとも感じました。
上海出店にあわせ開発された新作「Long」。中国の李朝家具をリデザインしています。
中国には十年以上前からヨーロッパの一流インテリア企業が多数進出し、モダンデザインのインテリアはすでに浸透しています。一方日本にとっての中国は、家具や設備の生産拠点であり、そこへ「家具を売る」という発想は持っていませんでした。しかし、同じ箸を使って食事をする文化圏のライフスタイルは、中国の生活によりフィットするのではないでしょうか。
あえてフェアなビジネスに
Q:ショップのデザインや具体的な準備はどのように進めたのでしょうか。王社長からは「日本側の負担が出来るだけ大きくならないように配慮したい」といわれました。しかし私たちとしては、出店して共に成長してゆくパートナーとなるからにはフェアな関係で出店を進めたいと考え、家具などの製品提供や、ショップのデザイン、施工管理、中国人スタッフ教育などは日本側で行うことにしました。
フェアな関係というのは、金銭や手間だけでなく、お互いの長所を生かしていこうということです。例えばショップのメンテナンスや商品説明のノウハウは、我々のショップを軌道にのせるため最も大切なことです。一方、中国との商習慣、政治的慣習の違いは、中国人パートナーなしにはクリアできない問題です。短期間で上海ショップを開店できたのは、お互いのバランスを上手くとれた結果と思います。
寝室とリビングを一体化した空間。床壁や天井、間接照明まで作り込み、現代日本の生活感を伝えています。
とはいえ問題も色々とありました。ショップの施工はこちらの思惑通りにはいきませんでした。内装というものは同じ材料を使っても、納まりや仕上げでまったく違ったものになります。中国の職人たちにそれを理解してもらうのは大変でした。なぜ言った通りにしてもらえないのかと最初は憤りましたが、それは価値観の違いから生じることで、根気よくこちらの考えを伝えていけば、素直に理解してきちんとやり直してくれる。手仕事を多くこなしているだけあって、職人個人の技能には非常に高いものがあると感じます。
日本ブランドに対する、反日感情などはないのでしょうか?次ページへ