新しい言葉が新しいものを指すとは限らない
オーガニックネームとは、女性雑誌「Neem」が元になって表れた呼び方のようで、和(にき)、由新(ゆに)、菜萌(なも)、深良(みら)といった名前の例があげられていますが、定義は明確ではありません。新しい言葉が流行すれば、それが新しいことのように思われることはよくあります。キラキラネームもそうで、あたかも個性を重んじる新しい流れのように思いこむ人も多いのです。しかし誰もつけないような珍奇な名前や、誰にも読めない間違った読み方の名前は昔からあったものです。ただ最近はその数が増えて、人名とかけ離れたようなギャグ名前、アニメやキャラクターを連想させるような名前が付和雷同的に広がっているというだけです。キラキラネームという呼び方は新しくても、内容が新しいわけではありません。
ではオーガニックネームは本当に新しい名前のジャンルなのか、ということですが、これも範囲が明確でないため、何とも決めにくいことです。奇抜で珍しいということであるなら、キラキラネームと何も変わらないことになります。オーガニックネームをそのまま日本語に訳せば、有機名前、自然名前、ということでしょう。それが「ナチュラルでフリーダム」「大地と一体化」という意味あいであったとすれば、具体的には自然界をあらわす文字や言葉が使われ、しかも天体や動物ではなく、植物の字が使われているような名前、ということになるかもしれません。
以前から見られた自然志向
オーガニックネームが自然を志向する名前であるなら、その傾向はすでに平成の始めから表れていました。例えば1998年~2000年の3年間で名づけに使われた漢字のベスト50をあげてみますと、「太・美・香・奈・菜・優・子・大・花・里・真・也・輝・海・樹・一・斗・平・乃・郎・人・拓・貴・彩・介・和・実・音・梨・夏・希・翔・悠・航・穂・莉・華・紗・沙・哉・佳・愛・理・健・千・陽・友・智・衣・日」
となります。このうち自然界に関する字は23あり、うち植物に関する字は12です。平成に入ってから自然に関する字が増えているのは確かで、自然に対する希求はすでに前世紀から名づけの傾向として表れていたのです。その後もこうした人気の漢字というのは、年によって大きな変化はしていません。そして2009年~2011年の3年間でのベスト50は、
「太・菜・花・美・真・優・悠・奈・斗・陽・大・人・莉・郎・音・乃・結・子・希・香・一・和・翔・心・里・介・愛・咲・輝・彩・紗・実・海・理・樹・衣・琉・生・晴・也・穂・梨・智・夏・仁・蒼・颯・華・志・貴」
です。このうち自然界に関する字は28あり、うち植物に関する字は15あります。
流行の名前が示す欠乏感とは
オーガニックネームが増えているのは、環境の悪化に対する不安が広がっている今の社会の姿を映し出しているあかし!?
(男の子)悠人・悠斗・颯太・瑛太・樹・隼人・海斗・陸・翔・大翔
(女の子)結衣・莉子・陽菜・楓・結菜・美羽・優奈・美月・優菜・遥
というふうに、全体の8割の名前に自然界に関する字が入っています。ただこのことの意味は深刻です。実は名前の流行は、その時代、その社会に欠乏したものが表現されることが多いからです。例をあげれば、子供の病死が多かった時代には「千代」「寿」など長生きを願う字がつけられ、経済的に困窮していた時代には「金」「富」などの字が多く使われ、食糧難の時代には「豊」「茂」「実」など収穫を意味する字が増えました。今、キラキラネームが個性の表現のように勘違いされ、今後オーガニックネームがナチュラル志向として益々増加していくならば、そこには真の個性が見失われ、原発事故を含めた環境の悪化に対する不安が広がっている今の社会の姿というものが映し出されているのではないか、ということになるのです。