調査結果を見る留意点ですが、全ての建物に当てはまるという訳ではありませんし、立地条件や入居者の年齢、性別、家族構成などによってもニーズは変わってきますので、充分に考慮していただきたいと思います。
人気の設備ランキングから見える賃貸住宅市場のトレンド
まず、1位の「エアコン付き」と2位の「都市ガス」ですが、もう入居者からしてみれば「あって当然」という設備で、常識化していると言えます。1階のお部屋はセキュリティー面の不安から、特に女性から敬遠されがちです。その為、1階のセキュリティーを手厚くする、専用庭を造り付加価値を付ける等、マイナス面を埋める工夫をしている家主さんもいらっしゃいます。そのようなセキュリティー面への関心の強さから、3位に「TVモニター付インターフォン」がランクされています。近年人気の設備となっていますが、安いものでは1~3万円前後で購入でき、大きな設備投資を伴わない為、空室対策として有効な手段と言えます。
同じ理由から9位に「防犯カメラ」、11位と12位にそれぞれ「ディンプルキーなどのピッキング対策の鍵」「玄関ドアのオートロック」が入り、セキュリティー関連設備の人気の高さが窺えます。
「ディンプルキーなどのピッキング対策の鍵」も重要な設備です。普通の鍵なら数秒で外してしまうようなプロの泥棒でも、ピッキングに強いディンプルキーを外すのには時間がかかります。泥棒は時間がかかることを嫌いますので、侵入を諦めさせる効果もあります。警視庁からも、非常に効果の高い防犯対策として認められています。
「玄関ドアのオートロック」も高い人気ですが、これは新築計画の際に導入を判断すべきものです。既に賃貸経営を始めている方が後付で導入する場合は、操作盤・ドア・配線・配電盤などの取り付けで大掛かりな工事が必要となります。金額的にも大きくなりますので、導入については、新築時に判断しておきたいものです。
最近の入居者は快適で清潔な設備を求める傾向が強くなっており、数年前までは下位にランクされていた「追い焚き機能つきの風呂」(4位)や「温水洗浄便座」(5位)、「保温機能付きの浴槽」(8位)、「浴室乾燥機」(10位)なども上位に入っています。
今後の賃貸住宅市場ではどのような設備が求められるのか
今後のトレンド予測をする上でも、リクルートの実態調査が参考になります。調査結果の一つに「これまで使ったことはないが、次に引っ越す時は(も)絶対欲しい設備・仕様」に関するデータがありますので、解説したいと思います。まず、1位の「都市ガス」については、都内では当たり前に「都市ガス」ですが、地域によってはプロパンガスの物件があります。プロパンガスは料金が高くて供給が不安定などの傾向があり、不満を持っている人が多いようです。その場合、都市ガスのアパートやマンションを選んだ方が多少家賃は高くなっても、最終的には不快な思いをせずに済むかも知れません。
2位に入っているインターネット通信環境については、今では当然必須の設備ですが、さらに無料・家賃込み、安価への要求が強くなっています。もともと物件に付いている光回線などの高速ネット通信を希望する人が多く、使用していた人も「次に引っ越す時も絶対欲しい設備・仕様」の7位に入っているほどで、単身者にとって男女問わず人気が高いものと言えるでしょう。
3位の「断熱・遮熱性能の高い窓」ですが、戸建住宅では複層ガラスサッシが普及し、結露対策、断熱・遮熱効果が知られるようになってきました。その結果、共同住宅でも入居者にとって電気代などランニングコストの負担がなく、冬の寒い時期に少しでも暖かく重宝されるものとして、かつての「床暖房」にかわって上位に入ってきたと思われます。7位の「遮音性能の高い窓」も同様です。
4位の「追い焚き機能つきの風呂」は、かつてはファミリータイプで人気があった設備ですが、単身者向け物件でのランキング上位に入り、ここ最近の大きな変化の一つと言えます。
費用対効果を考えた設備導入
入居者ニーズというのは、最初に建物を新築する時、次に入居者が退去した時にクローズアップされるものです。既に賃貸建物をお持ちの方であれば、入居者退去後のリフォームを原状回復レベルで終わらせるのか、または、もっと踏み込んでリノベーションまで行うのかを判断することになります。新しい設備を導入する場合には、最新の入居者ニーズが非常に重要なポイントになるでしょう。ただし、闇雲に人気設備を導入しても意味はなく、必ず費用対効果を考える必要があります。TVモニター付インターフォン、ディンプルキー、防犯カメラなど、まずは低コストで導入し易いものから取りかかるのが最もスタンダードでしょう。家賃の値上げを目指し、床暖房やシステムキッチンなどの高機能な設備を導入するのも一考ですが、家賃が下落している昨今では、果たしてどの程度家賃を上げられるかは疑問が残ります。
「余計なお金を一切かけたくない」という場合には、設備の導入はせずに単純に家賃の値下げも選択肢の一つです。家賃を下げることで入居者を確保し、一時的に空室をしのぐことが可能です。
入居者退去後にどのような選択をするのかは、経営的な判断になると言えるでしょう。何の対策も取らずに、無駄に空室期間を延ばすのは一番良くないことです。決断は早ければ早いほど良く、ここは家主さんの経営者としての判断力が問われます。
人気設備を導入すれば家賃は上げられるのか
家賃が上がっても欲しい設備としては、「エアコン付き」、「追い炊き機能つきの風呂」、「ディンプルキーなどのピッキング対策の鍵」がTOP3に入っています。さらに「宅配ボックス」も必要としている人の中では家賃が上がっても欲しいと思っている割合が高いことが分かります。設備が充実していれば、当然、家賃も高くなります。しかし、最近はそれ以前の問題として、入居者の支払うことのできる家賃の相場が下落しています。また、消費税増税も控えており、入居者の生活は更に厳しくなることが予想されます。今後は、家賃下落を受け入れながらも、併せて空室対策として設備投資をしなければならないという、厳しい時代になってくることを認識しなければなりません。
これからの賃貸経営は、全くお金を掛けずに家賃を維持することはできません。入居者が本当に求めている適切な設備を負担が重くなり過ぎない範囲で選択し、導入して行く知恵と工夫が求められます。