インスリン治療でも甘くて美味しいデザートが禁止されているわけではありません。しかし、いつでもインスリンでのカバーの対象です。カーブ・カウントを会得しましょう。
どのくらい難しいかと言うと、一般の内科医では自信を持って指示できないくらい難しいのです。例えばICU(集中治療室)に入っている患者の血糖コントロールがいかに困難かは、医療プロバイダーなら誰でも知っています。
こんな難しいことを1型、2型を問わずインスリン・ボーラス/ベーサル治療をしている私たちは、毎日自分で判断しながら自己注射をしています。こんなシチュエーションの連続ですよ。
そろそろ食事どき。インスリンはどうする?
食事は30分後?それとも1時間後?昔は食事の時のボーラスインスリンは速効型(ノボリンR、ヒューマリンR)だけだったので、食事が始まる30分前に注射しました。英語のレギュラー(R)インスリンを日本では速効型と訳しましたが、速効型とは名ばかりで体に作用が始まるまでに30分~1時間もかかったので、結婚式などの宴会で来賓の挨拶が長々と続くと、30分前にインスリン注射をしてしまった糖尿病のある列席者はなんとも困惑したものです。
今日ではボーラスには超速効型(ヒューマログ、ノボラピッド、アピドラ)が多く使われますが、これは食事直前の注射です。10~15分以上も前に注射してはいけません。
レストランで、いつ料理が運ばれてくるのか分からない!
海外の高級レストランは料理よりも会話を楽しむ社交場ですから、時間はのんびりと進みます。また、込み合っている店では料理がなかなかでてきません。そこで、レストランでのボーラスインスリンの鉄則は、料理が運ばれてきてから注射すること。もし、タイミングがずれてしまったら、ウエイターにパンを先に持ってこさせましょう。レジの脇にお口直しのキャンディが置いてある店もありますが、インスリン治療者はどんな場合でもブドウ糖を常に携帯するのが心得です。
朝食前のエクササイズで一汗かいたら…
こんな心掛けのいい2型糖尿病患者に会ったことがありませんが、1型の人でスポーツ好きは大勢いるでしょう。ひとつのルールは、早朝空腹時血糖値が正常あるいはやや低かったら、早めにブドウ糖15g相当のちょっとしたスナックを取ってから行うこと。朝食前にもう一度血糖測定をして正常範囲なら通常のインスリン単位に戻ります。
エクササイズ後の血糖が下がりやすい人では、ボーラスを1/2に減らして、しばらくしてから再度血糖測定をして結果を確認する方法もあります。
ちょっとしたスナックを取る時のインスリンは?
でも、その後でエクササイズをするつもり1型糖尿病では炭水化物が15g以上あるスナックは一般的にインスリン追加の対象になります。悩ましいのは食べる前の血糖値とスナック、それに対するインスリンの関係にエクササイズが絡むことです。
もし、食べる前の血糖値が低めなのにスナック分のインスリンをカバーすると、低血糖の恐れがあります。もし、スナックを食べる前の血糖が正常域なら、スナックのブドウ糖と運動量がバランスされるのでインスリンは必要なさそうです。もちろん、エクササイズ後の血糖をチェックするのですが。
もし、スナックを食べる前の血糖値が高ければ、高い分のインスリンをカバーします。どの程度のコレクション・インスリン(後述)を注射するかは、人やスナックの質と量、その人のインスリン感受性や運動の強弱、運動時間などに左右されます。実際に経験しながら会得するしかないでしょう。
就寝前の血糖値が高い時、低い時
1型糖尿病や妊娠している場合は夜間の低血糖・高血糖を防ぐため、就寝時の間食あるいはインスリン注射、またはその両方が治療プログラムに入っています。2型でもランタス(一般名グラルギン)のような基礎インスリンを就寝時に1日1回だけ注射するような人では、注射時のスナック摂取が計画されていることがあります。高めならば間食を我慢できればパスしましょう。空腹で間食を取る場合は、日中の食事のようなレートでインスリンを使うと低血糖のリスクが高くなります。
1型糖尿病はもとより、2型でもインスリン・ボーラス/ベーサル治療をしている人は、15g以上のブドウ糖(炭水化物)を含むスナックはインスリンの対象になるのですが、この場面でのルールは日中のインスリン/炭水化物のレートを使わないことです。例えば、日中はインスリン1単位が炭水化物15gに対応していたとすれば、就寝時はインスリン1単位に炭水化物20gにさせます。つまり、安全のためにインスリンを少なくするのです。
食事の時のインスリントラブル
ボーラスインスリンの食前注射を忘れた!!インスリン注射を忘れたことで自分を責めないでください。私も時々忘れます。家内がそばに居ないと、よく(!?)忘れます。もう8年はインスリン治療をしていますが、なかなかルーティンワークになりません。
もし食前注射を忘れたら、食事中でも食後でも予定単位を注射すればいいのです。食後1時間以内でも同じです。ただし、その場合は血糖値の動向に気配りしましょう。
私はそのまま忘れてしまうことが多く、毎度のことですが次の食前血糖測定でわめき立てます。でも、まだ大丈夫ですよ。次の食事の予定量のインスリンに、高い血糖値を通常の食前目標値に戻すコレクション(correction、補正)・インスリンを足して事無きを得ます。私の場合は超速効型インスリン1単位で血糖値を約25mg/dl下げられるのです。コレクション・インスリンの計算は自分でも出来ますので、近々に紹介しましょう。
食事が終って1時間もたたないのに、また美味しそうなデザートに目がくらんでしまった!
食後ですから血糖値は高止まりしています。でも、この場合はデザートの分のインスリン追加だけでいいのです。食後の高血糖の分のインスリンは食前のボーラスでカバーされていますから。
(つづく)