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「挑戦」の哲学をもつ木の椅子(後編)(2ページ目)

UP#043:リートフェルトの生涯で最初の量産化椅子。極めてミニマムな木製の椅子、「ジグザグ・チェア」。前編に引き続き木の椅子の逸品をご紹介します。

石川 尚

執筆者:石川 尚

ファニチャーガイド

鋭くえぐりとった椅子の取手


まず、椅子を真上から見てみよう。


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板厚21mm、幅328mmの背板。実は、この背板は一枚の板・・・・・
(写真をクリックすると拡大されます。)

背板の上部は、厚さ21mm、幅328mmの一枚板。しかし、よく見ると木目の流れが所々違うことに気づく。
4枚の板を接ぎあせて1枚の板に仕上げ、木材の反り防止(1枚板だと気温湿度の変化で反りが出てくる)や木目の美しさを引き立たせている。単純に加工されているようにみえるが、実は接いだ4枚の板の中には水平方向に横材がはいっており、とにかく手間をかけ、素材の特徴や意匠上しっかりと計算された造りとなっている。

この背板の裏側から座面に続く部分も興味深い。


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幅150mm、高さ20mm、深さ10mm鋭くえぐられた背板の裏側。これは板厚を最大限に利用した・・・・・
(写真をクリックすると楔部分が拡大されます。)


背板の裏側上部を鋭くえぐりとった部分がある。ここも無垢の木材、板厚21mmを生かしたディテール。ちょっとした加工だが、実際に椅子を使う…そう腰掛けるために椅子を引く…時とても便利な部分、つまり椅子の取手である。今ではルーターという刃が回転する機械で加工が出来るが製作当時は彫刻刀のようなものでえぐり出していたのだろうか。。。この取手は機能のひとつであると同時に、椅子のバックビュー(後ろ姿)のポイントにもなっている。

「見せる」ところと「見せない」ところの使い分け


背板と座面の交差している部分を後斜め下からみる。


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手前から市松のように板の色が繰り返えされている。ここも上部の・・・・・
(写真をクリックすると拡大されます。)


幅328mmの背板の下端を手前から23mm、27mm、23mm、27mm…繰り返しの板が交差している。まるで升のようだ。これは「組継ぎ」といい、ちょうど手と手を組んだような状態の接合方法である。
この接合部分を今度は下からのぞく……面倒なので、椅子をひっくり返してみると、若干この接合部分の形状が違うことに気づく。


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下端、右から25mm、27mm、23mm、27mm、23mm…上端、右から22mm、33mm、17mm、33mm、17mm……(写真をクリックすると拡大されます。)


今度は端から22mm、33mm、17mm、33mm、17mm…と繰り返している。背板の下端とはちがい、少し台形状の組方になっている。これは「蟻組継ぎ」といい、組んでしまえば抜けないようになっている。座面に腰掛け、背板に体を預けるとココの継ぎ手部分にかなりの力が加わるので、しっかりとした「蟻組継ぎ」で支持するしているのだ。ここ部分も座面の下側から見ないと継ぎ手は見えず、後ろ姿からは「見せないディテール」となっている。「見せる」ところと「見せない」ところの使い分け、そして最小限の構造とディテールがリートフェルトの「挑戦的」デザインであり、哲学である。



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脚の底板に表記されたカッシーナの製造番号。信頼と製作職人のプライドが刻まれている。(写真をクリックすると拡大されます。)

前編でもふれたが次ページにて椅子のデーターをご紹介しておこう。



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