伊三郎とリチが目指した新しいデザインとは?


伊三郎の建築は現存するものが極めて少なく、それが故に詳しく知られてこなかったのだろう。実際、今回の展示もスケッチや図面、写真といった平面資料しかなく、見る側のものとしては、消化不良、ストレス気味……多彩なリチの作品の多さに比べ対照的な存在として映っているのは筆者だけではない。

ただ、貴重なスケッチや写真を通して、建築家:伊三郎の「視線」は強く感じられ、とくにインテリアデザインを生業とする筆者の目には、当時京都における一連のスター食堂系列店舗(現スター株式会社)「スターバー」の着色された建築室内図や家具図面の中に描かれているリチデザインのカラフルなインテリアアイテム、ファブリック、壁画、天井画などが、興味深い存在として映ってきます。

(各)「スターバー内装デザイン」作:上野伊三郎+リチ、1930年、(引用:「上野伊三郎+リチ」コレクション展図録,p167)

バウハウス全盛の当時のヨーロッパ。無機質で機能美を追求したバウハウスデザインとは一線を画するかのように、耽美で幻想的な装飾空間を創りだそうとした上野伊三郎+リチの目指した「総合芸術としての建築」が、みえてきます。(もっとも晩年、伊三郎はリチと異なりバウハウスの目指した活動について相当の研究を費やしたに思われる…図録解説文から引用

………それにしてもこの商業建築、現存するものがないとは、、、口惜しい!

「スターバー」作:上野伊三郎+リチ、1930年、(引用:「上野伊三郎+リチ」コレクション展図録,p165)
写真をクリックすると画像が拡大されます。必見!!!

さて、 最後の展示スペースでは、目黒区美術館ゆかりの建築家:村野藤吾と上野リチの仕事を見ることができます。

ウィーン世紀末芸術の残響がこだましている。

前出の「スターバー」壁画もそうですが、植物の有機的な線と華やかな色彩は、リチがもっとも好んでいた描写であり、ウィーン時代から一貫したスタイルでした。このスタイルが遺憾なく発揮された作品に、建築家:村野藤吾設計なる、1963年竣工の日本生命日比谷ビル・日生劇場の地下レストラン『アクトレス』があります。(筆者の家内は実物見ている!と、大騒ぎ)
(左)日生劇場「アクトレス」壁画デザイン 作:上野リチ、1960年代、(引用:「上野伊三郎+リチ」コレクション展図録,p180.184.185)
写真をクリックすると画像が拡大されます。

この「壁画」について、興味深い逸話が図録に記載してあるのでご紹介しておこう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「(中略)壁面装飾は直接壁に描いたような壁画ではなく、襖のような継ぎ目があり、不透明な水性絵の具で描かれた用紙は、アルミ箔の貼られた銀色の襖紙。花や鳥で裏打ちされて壁や天井に貼り継がれていた。(中略)モダンな壁面装飾が襖紙に描かれ、裏打ちに和紙と麩糊が使われ、日本の障壁画の下張りの技法で使われる‘袋張’を省略せずに踏襲して壁紙に張られていた。(中略)日本の障壁画という言葉こそ、ウィーン世紀末クリムトらによって実践された壁画制作のみならず、日本の琳派などからの影響が認められる装飾性が、このアクトレスでふたたび蘇っていることを物語る。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(引用:「上野伊三郎+リチ」コレクション展図録,p21)


そして、「スターバー」は上野伊三郎と、「アクトレス」は建築家:村野藤吾とのコラボレーションによって、鮮やかに実践されたが、そこにはリチが幼い頃から自然に感化されたウィーン世紀末芸術の残響がこだましている………とも。
ウィーン好きの筆者の妄想だが、日本の琳派などの影響をうけただろうウィーン世紀末アーティスト:クリムトが、その日本にきて上野伊三郎や村野藤吾ら建築家とコラボレーションしている……それは想像を絶する大変な出来事。それに近い活動をこのご夫妻がされたということ。

あらためて今回の展覧会は、『ウィーンから京都』、時空をこえて開花した『上野伊三郎+リチ』の建築・デザイン・工芸などジャンル横断した創作活動を垣間みることができる貴重な展覧会といって過言ではない。

最後に目黒区美術館学芸員:佐川さんから嬉しいお知らせが届きました。
お知らせは、貴重な『展覧会図録』についてです。ご参考に!!

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■今回の関連リンク
ウィーン・京都『上野伊三郎+リチ』展(前編)


目黒区美術館


京都国立近代美術館


村野藤吾を読む。



■「上野伊三郎+リチ」コレクション展
■会場:目黒区美術館
■会期:2009年4月11日~5月31日

※ 取材協力:目黒区美術館






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