65歳までしっかり働けることの価値は
この「無年金の5年」について、仕事をすることができればどうでしょうか。原則として会社は65歳まで再雇用をしなければならないことになりましたが、年金がもらえるまで働くことができれば、お金の取り崩しをせずにすみます。再雇用の場合、50歳代の頃の賃金よりがくんと下がるのが一般的です。新卒の初任給以下になることも珍しくありません。(60歳代前半の賃金が大きく下がった場合、下がり具合に応じて雇用保険から雇用継続給付が出るため、合計収入はもう少し多くなる可能性があります)このため、勤労意欲が出ないという人もいます。しかしこれはとてももったいない話です。
実際問題として「住宅ローンは完済済み」「子どもも卒業して教育費はかからず」となると毎月の家計は10万円以上下がることも多く、60歳代の生活費はかなりシンプルですみます。仮に「60歳代前半の下がった生活費=60歳代前半の下がった賃金」であったとしたら、この5年間にお金を取り崩さずにすみます。そうすれば、60歳時点で持っていた財産は取り崩さずにすみ、65歳以降のセカンドライフに回すことができます。
たとえ「60歳代前半の生活費>60歳代前半の賃金」ということであっても、全額取り崩すより取り崩し額は少なくてすむことは明らかです。先ほど5年で1500万円を崩した例を紹介しましたが、毎月の取り崩しが5万円ですめば、5年で300万円の減少に食い止められます。この差はそのまま65歳以降に使える財産になります。大きい違いです。
60歳代前半に仕事で稼げるのは「2000万円の運用」と同義
そう考えてみると、「60歳代前半にお金を取り崩さずにすむ」ということは、資産運用でお金を稼ぐのと同じくらい価値があるといっていいでしょう。同じ働く能力があっても、仕事をせずに5年過ごせば収入はありません。雇用継続給付とあわせて新卒の学生程度(年収400万円程度)を得られれば、これは5年で2000万円の収入を稼いだということです。自分の能力を活かす意義は大きいわけです。60歳すぎで同窓会をすると、たいていの参加者はお互いの働き具合について情報交換します。このとき「再雇用できず年金もゼロ」という人と「再雇用できてそこそこ年収がある」という人、「いい条件で60歳以降も働けている」という人が現れます。「働けてうらやましいねえ」なんて言っていても5年後には大きな差が生まれます。60歳まで高所得であった人が、再雇用のチャンスに恵まれず、65歳の同窓会では元気がない、なんてこともあります。おそらく5年でずいぶんお金を取り崩してしまったのでしょう。
逆に60歳まではあまり仕事の昇進チャンスに恵まれなかったが、60歳代以降も働く機会があって、重宝される人材であったため、大きくセカンドライフの財政をプラスになる人もいます。仕事もできて楽しく過ごしていたりします。「能力」「チャンス」「人柄」「人脈」など、60歳代前半で働く条件はいろいろな要素に影響されます。50歳代の人はぜひ、「60歳からの5年間」を意識した働き方を考えてみてください。
そして60歳代前半に働くチャンスはしがみついてでも、手放さないようにしてみてください。65歳以降の20年を過ごしていく間に、その5年の価値がしみじみと分かる日が来るはずです。