建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

家具もスティショナリーも建築の一部という山中祐一郎 コンペか

設計コンペで優勝し、はじめての家を建てるという29歳の建築家が誕生。山中祐一郎さんは、アルミのコンセントカバーやスポンジの椅子などのプロダクトデザインで有名な異色のアーキテクトです。

執筆者:坂本 徹也

家具もスティショナリーも建築の一部という山中裕一郎さん


それはまるで地上に舞い降りたステルスのような形状の住宅です。 ハウスコンペで選出された山中祐一郎さん作の国分寺の家は、三角形といういびつな形状の土地にくわえ、2世帯住宅で総予算1850万円というローコスト。
きびしい条件の下で、これが第1作となる山中さんの挑戦がはじまりました。
「この土地は変形の三角形なんですが、その形状に素直につくろうと思ったんです。無理に四角い家を建てようとするとどうしても変な方向を向いてしまいますから、それはこの土地に対して素直じゃないと思って、まず土地の形状にピッタリくるような家を考えたわけです。でもそれだと、容積率がオーバーしますから、建ぺい率・容積率を考えて真ん中にその分だけ“くびれ”を取った。それがこの設計プランの出発点です。
さらに、木造の2階建てで単純な構造、難しいことは何もしないということにしました。ピッチも1900の規格どおり、外壁と屋根はすべてガリバリウム鋼板で覆ってしまいます。できるだけ無理をしないでシンプルにというのがコンセプトですね」(山中さん)

なるほど三角形の家には大きな中庭があり、それは1階では大きな導入部になり、2階ではぐるりと回遊できる仕掛けとなってこの家の強いアクセントになっています。
山中さんは、この“くびれ”をパブリックな機能とプライベートな機能との緩衝帯と言い、また「風が抜け光を呼び込む」通路だと言います。
「“風が通る”というコンセプトはコストダウンにもつながってるんです。じつは予算的に冷房設備を付けられないんですね。そうしたときに高気密高断熱でつくって、完全に空調をコントロールしてというのはこの家に合わないと。断熱はしっかりするとしても、気密性よりは通風がいかに取れるか、換気をいかにするかというのがすごく重要だと思って、風の通り抜ける家を考えました。だから屋根に近い上部に排煙窓をつくって、下から吹き抜けてきた風が上に抜けるという状態をつくります。中庭はそのために機能するはず。すごく暑い日はともかく通常の夏なら通風だけで快適に過ごせると思いますよ」
中庭はまた、親世帯と子世帯との関係をつなぐ重要な役割も担っています。
親世帯の和室からはつねに中庭が見えて、学校から帰ってくる孫たちの姿が見える。子世帯は共働きでともに日中は家にいない。幼い孫たちは、学校から帰ってくるとまずおじいちゃんおばあちゃんに挨拶に行くのが日課なのだそうです。つまり中庭は大きな玄関のような役割も担っているわけですね。

この家は視覚的な一体感が念頭に置かれていて、ひじょうに単純な形です。
子ども部屋にはいちおう引き戸を付けてあり閉めたいときには閉められるようになってはいますが、それを開ければ中庭をぐるりと回る回遊性を楽しめます。
「子どもさんはまだ小さいですから追いかけっこをすると思うんですよ。
だからグルグル回れる家にしたいというのがありました。また、お母さんが立つキッチンから子どもがいまどこにいるかわかる配置にしてもらいたいという要望もあって、視線をふさぐものは何もつくらなかったんです」(山中さん)
子どもたちにとっては、きっと思い出深い家になることでしょう。




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