奇跡の復活!気仙沼のジャズ喫茶
2012年8月の気仙沼港
3.11の被災地、気仙沼に創業が昭和42年というジャズと珈琲を楽しめる喫茶店がある。まだ被災の跡がなまなましく残る昨年の4月に気仙沼を訪れた。跡形もなく変わり果てた街を歩きながら、言いようのない気持ちが胸をつぶした。連れとのまじわす言葉もなく、どこに行くでもなくひたすら歩き、何軒かかろうじて家が流されなかった地域にでた。ふとよく見ると、気仙沼に来た時は必ずよる珈琲屋ヴァンガードの前だった。いくつものドロドロの椅子が外に放り出されていた。建物もひどい状態で、再起は無理と思わざるをえなかった。破れたガラス戸のむこうに、オーナーらしき人影が見えたが声をかけるのは控え、その場を立ち去った。
ジャズ喫茶ヴァンガード
そして今年の夏、再開していると人づてに聞いていたので、ヴァンガードの珈琲を楽しみにして足を運んだ。依然と変わらぬ渋いドアを開けて、びっくり、被災前と変わらぬ姿がそこにあった・・・!何一つ変わっていなかった。革張りの椅子、古ぼけたイタリア風の床のタイル。それに、煙草のヤニで茶色に変色した塗り壁、黒光りしていた天井板、板壁に取り付けられた古ぼけたクラシックのブラケット照明、アァ~どす黒く変色したメニューの看板。もちろん室内に低く流れるジャズのリズム、スピーカーだけが新品で光っていた。
ジャズ喫茶ヴァンガード
大きなグランドピアノも元の位置に、オーナーに「ピアノ無事だったの?」の質問に「新しくしたんだよ」とのこと。このヴァンガードは、ジャズライブを定期的に開催、気仙沼の文化の発信源にもなっている創業昭和42年の老舗です。毎年ここで珈琲を呑んで30年、その当時からブレンドコーヒー260円、カレーセット500円と変わっていないのは驚きである。2階まで津波が押し寄せたこの建物、元のままのインテリアに戻せることが、奇跡のように思われた。潮水に漬かりながら生き延びた、この革張りの椅子の丈夫さには感嘆してしまう。上質で本物の素材の漆喰や無垢の板が、今や嫌われものの煙草のヤニで燻製され続けたことが良かったのではないかなどと思っている。これからの日本のインテリアは、このような時間を重ねたインテリアを大切にしていく必要を感じています。