糖尿病/糖尿病の原因・基礎知識

net carbs(!?) とカーブカウンティング

米国のアプリで加工食品の成分表をチェックすると「net carbs」という表示があります。net(正味の)carbs(炭水化物)とは何でしょうか? 一見すると日本語の「糖質」に相当するavailable carbohydrateと同じようですが、そうとも限りません。

執筆者:河合 勝幸

(c)2010 KAWAI Katsuyuki

炭水化物を極端に制限して減量と血糖正常化を実現しようと提唱している医師がいます。私は不足しているインスリンは補えばよく、野菜・果物たっぷりのヘルシーグルメが究極の食事療法だと思っています。
(c)2010 KAWAI Katsuyuki

米国のアプリで加工食品の成分表をチェックすると「net carbs」という表示があります。net(正味の)carbs(炭水化物)とは何でしょうか? 一見すると日本語の「糖質」に相当するavailable carbohydrateと同じようですが、そうとも限りません。

例えば、シュガーフリーをうたい文句にするハードキャンディには、この製品は「0(ゼロ) net carbs」と表示してあり、その説明として「net carbsとは全炭水化物から糖アルコールを引いたもの」と書いてあります。言葉を返せば、糖アルコールだけで作ったキャンディだからnet carbsは0(ゼロ)だとするのです。

もう一つ例を挙げましょう。低炭水化物を売り物にしている栄養補助食品(朝食や軽食にも利用できる)が1回分の摂取量をバー1本として、バー1本あたりわずか3gのnet impact carbs(血糖に影響を与える炭水化物)しか含んでいないと宣伝しています。

でも、食品成分表をよく見ると、全炭水化物はバー1本あたり22gあります。その内訳としてファイバー3g、糖アルコール7g、糖類0gとなっています。しかし、これでは計算が合いません。

そこでもう一度よく見ると「炭水化物インフォメーション」というのがあって、当製品は全炭水化物22gからファイバー(3g)、グリセリン(9g)、糖アルコール(7g)を"血糖値にわずかしか影響を与えない物"として全炭水化物から差し引いて、残りの3gをnet carbs(正味炭水化物)として表示したと説明してあります。

いずれも何となく怪しい話ですね。

なぜでしょう? 正解はnet carbsが公式の栄養表示用語ではないから

net carbsの法的な定義はありません。ですからFDA(米国食品医薬品局)もADA(米国糖尿病協会)もこの言葉を使いません。

"net carbs"という言葉を目にするようになったのは、今から10年ぐらい前に、米国でアトキンス医師の提唱するアトキンス式低炭水化物ダイエットがブームになった頃からです。

アトキンス式ダイエットでは全炭水化物からファイバーを引いたものをnet carbsと言っていました。ちょうど日本の「糖質」に相当するものです。一方で、日本も米国も、栄養表示基準として「炭水化物」にはファイバーや糖アルコール(グリセリンも含む)も含むことになっているので、なんとか低炭水化物(ローカーブ)をアピールしたい食品メーカーが、血糖上昇にインパクトの小さいファイバーや糖アルコールを差し引いて、小さな数値にしたものを"net carbs"とか"impact carbs"、"net effective carbs"と銘打って低炭水化物ダイエットブームに乗り遅れないようにしたのです。

糖尿病とnet carbs

では、ファイバーや糖アルコールが全く血糖値を上げないかというと、必ずしもそうとは言えません。例えば糖アルコールにはソルビトールやキシリトールなどのよく知られた物以外にもいろいろな種類があって、エネルギー1gあたり0.2~3.0kcalもあって、消化・吸収が悪いわりには0(ゼロ)カロリーではないのです。

FDAは全ての糖アルコールを一律に2kcal/gと計算するか、あるいは個別に積算するように勧めています。

ただし、このカロリーは、体が吸収してブドウ糖として得たものか、小腸では吸収されずに大腸で腸内細菌によって分解されて、酪酸(らくさん)やプロピオン酸のような短鎖脂肪酸に代謝されたものを大腸の上皮細胞がエネルギー源として吸収しているのかは解明されていません。短鎖脂肪酸なら血糖値を上げないのです。

そこでADAは、もし患者が厳格なインスリン治療をしておらず、食品中の炭水化物(g)を積算するカーブカウンティングもしていないのなら、食品成分表をよく読むだけで何のアクションも取らなくていいとしています。つまり、net carbsもファイバーも糖アルコールも無視してよろしい。

もし、患者が厳格なインスリン治療をしていて、食事計画もカーブカウンティングをしながら「カーブ/インスリン レシオ」で糖尿病マネージメントをしているのなら、次のような計算方法も選べるとしています。

□ 糖アルコールの量(g)の半分を全炭水化物(g)から引く。(逆に言えば糖アルコールの半量をカーブとしてカウントするということ)

□ ファイバーの量(g)が5g以上あれば、その分を全炭水化物(g)から引く。5g未満なら影響が小さいからそのまま。

分かりやすく例題を作りましょう。

ある食品の成分表が次のようだとすると、

  全炭水化物 18g
 食物ファイバー 2g
 糖類 0g
 糖アルコール 12g

カーブとしてカウントするのは12gです。

 18g 全炭水化物
 -6g 糖アルコール(12÷2)
 -0g ファイバー(5g未満)
------------------------
 12g

日本の栄養表示基準では炭水化物からファイバーを引いたものを「糖質」として表示してありますからカーブカウンティングも容易になると思いますが、精度は落ちるかもしれません。米国では炭水化物(糖質+ファイバー)と一括されたものからファイバーと糖アルコールを別々に評価するのでこのような計算方法が指導されているのです。

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