糖尿病/糖尿病の原因・基礎知識

緊急の際に糖尿病患者から信頼される介護とは

介護を受けている人が糖尿病を併せ持っていて、家族あるいは介護職員の介護が必要となるケースはとても多いでしょう。普段はよくコントロールされている患者でも、血糖値の変化で容体が急変することがあります。糖尿病はいざという時に囲りの人の理解と対処が必要な病気でもあるのです。

執筆者:河合 勝幸

介護を受けている人が糖尿病を併せ持っていて、家族あるいは介護職員の介護が必要となるケースはとても多いでしょう。普段はよくコントロールされている患者でも、血糖値の変化で容体が急変することがあります。糖尿病はいざという時に囲りの人の理解と対処が必要な病気でもあるのです。

厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査」によると、50歳代男性の5人に1人以上が糖尿病とみられています。一方で介護が必要なく自立して元気に過ごせる「健康寿命」は2010年で男性が70.42年、女性が73.62年です。となると、高齢社会の日本では介護が必要で糖尿病のある人がいかに多いかが分かりますね。

一口に糖尿病と言っても、1型糖尿病や2型糖尿病の区別もあり、経口薬やインスリン注射、その他さまざまな治療法があります。特に難しい病気ですから詳しく理解することは出来ませんが、いざという時に最初に行動を起こすのは介護をしている人ですから、最小限の判断基準は身に付けておきたいものです。

ここでは糖尿病特有の介護の必要な低血糖と高血糖について説明します。

介護の程度に関わらず、危険な低血糖や高血糖の症状に不意に出合うと、さぞ驚くことと思いますが、糖尿病のある人を介護する場合は、まず次のようなことに気配りください。
  • どんな薬を服用しているか
  • それらの薬の効能・効果はどのようなものか
  • 低血糖、高血糖の症状や兆候
  • 手助けが必要な低血糖、高血糖の場合の対処

低血糖のサイン

低血糖の症状や前兆については「糖尿病治療の制約因子……低血糖の症状・兆候」で詳しく解説してありますからご参照ください。

低血糖の症状はとても説明しにくいもので、やっかいなことに時と場合によって自覚症状が変わります。周囲の人は患者が急にイライラしたり、ムードが変わった時はこの低血糖も疑ってください。こんな時は意外と本人は低血糖を自覚してないものなのです。

運転免許と糖尿病で紹介した無自覚性低血糖もまだ完全には解明されていません。普通は血糖値が低下すれば交感神経系と副腎髄質の活性が増加して低血糖の症状を引き起こすアドレナリンやノルアドレナリンの分泌が増えるのですが、無自覚性低血糖ではなぜかこの反応が弱まっているのです。

どうやら脳の深部にある視床が低血糖の影響を強く受けているようなのですが、治療の道筋はまだ不明です。視床は睡眠や全ての感覚をコントロールする中枢です。

低血糖を起こしやすいのは、インスリン治療やスルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬を服用している人たちですが、それとは別にベータ遮断薬を服用している人、高齢者、子ども、食事をパスした人、不用意に強く長い身体活動をした場合も注意が必要です。

低血糖時の対応

グルカゴン注射キット

グルカゴン注射キット。グルカゴンは血糖を上げるホルモンです。ジョディ・フォスター主演の映画「パニックルーム」で、このグルカゴン注射キットが重要な小道具になりました

ほとんどの場合は低血糖の症状が自覚できますから、ブドウ糖10~15g(砂糖ならその倍量)、あるいはそれ相当のジュースやソフトドリンク(シュガーレスやカロリーゼロはだめです)、牛乳を摂取して15~20分待ちます。低血糖症状がなお続くようなら再度同一量を摂取してください。

ベイスンのようなアルファ-グルコシダーゼ阻害薬を服用している人は必ずブドウ糖を取ること。私は体が大きいので欧米の「15ルール」を守っています。ブドウ糖15gで15分待つのです。ブドウ糖は医師が処方してくれますから、身近な所に用意しておくように。

意識レベルが低下して経口摂取が不可能な場合は119番通報で医療機関へ運ぶこと。決して飲料や食物を与えようとしてはいけません。

1型糖尿病患者で医療機関からあらかじめグルカゴン注射キットを渡されてその使い方の教育を受けていれば、家族がグルカゴン注射をして意識が回復したらブドウ糖あるいは食物を摂取させます。その場合も担当医の指示を受けるように。

高血糖のサイン

インスリンの作用不足のために中程度以上の高血糖が持続すると、喉の渇き、水をたくさん飲む、多尿、体重減少、疲れやすいなどの特徴のある症状が表われます。物が見えにくくなったり、ドライスキンに気づくこともあります。ただし、慢性的な高血糖と急激な血糖上昇では気付き方は違いますし、そもそも個人差の大きいものなのです。これらの症状が自覚できない人もいます。

1型糖尿病のケトアシドーシスは危険な状態で、専門医による治療が必要になることが多いのです。2型糖尿病でも高浸透圧高血糖症候群という意識障害を伴う高血糖合併症があります。これは高齢の2型糖尿病患者が、感染症や脳血管障害、外科手術、高カロリー輸液、利尿薬やステロイド薬を投与されて高血糖をきたした場合に起こりやすく、発症まで数日かかりますから介護する人は注意してください。

高血糖時の対応

急性の高血糖(低血糖も含む)は発症初期に適切な治療を受けられるかどうかが予後を分けます。認知症がある患者ではたぶん見分けがつかないでしょうが、血糖値を測れば見当がつきます。異常に早く気付いてください。

日本の治療を受けている糖尿病の総患者数は約237万人(厚生労働省調べ)ですが、国際糖尿病連合の推計では日本の20~79歳の糖尿病人口は1,067万人とされています。いかに未診断の糖尿病者が多いかが分かります。症状を早く見つけて適切な介護をお願いします。

血糖コントロールは容易なことではありませんが、薬を服用して血糖測定の毎日になると思います。

また、糖尿病と診断されると、実態の分からない糖尿病食を連想して困惑する人も多いと思いますが、糖尿病食なるものは存在しません。ごく普通の健康的な食事で十分ですからご安心ください。
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