『残穢(ざんえ)』小野不由美 著
物語は、作家を生業にしている「私」のもとに、一通の手紙が届くところから始まります。「私」は一時期、本のあとがきで<怖い話を知っていたら教えてほしい>と呼びかけていたのです。手紙の送り主である久保さんは、自身が体験した奇妙な出来事について書いていました。真っ暗な和室で畳を掃くような音が聞こえるといいます。久保さんが住んでいるのは、ごく普通のマンション。事故物件ではないし、家賃も相場以内ですが、調べてみると住人が短期間で入れ替わっている部屋がいくつかあることがわかります。しかも転出者のうち一人は自殺していました。久保さんは、さらに周辺の取材を進めて、判明したことを「私」に報告するようになります。すると、マンションの周辺で起こった怪異がどんどんリンクしていくのです。
土地の記憶が断絶した時代ならではの実話風? 怪談
作中に書かれた「私」のプロフィールは著者自身を彷彿させるし、実在する作家も調査の協力者として登場します。「これって、ほんとうにフィクション?」と思わせるところがまず怖い。また、無人の部屋から変な音が聞こえるとか、いるはずのない赤ん坊の泣き声がするとか、床下を誰かが這いまわっている気配があるとか、一つひとつは怪談ではありがちな現象なのに、連鎖の仕方が怖い。いま、先祖代々受け継いだ土地に大人になっても住んでいる人はほとんどいません。土地は歳月を経て分割される。大きな建物が壊されて、小さな家がいくつも建つ。もしくは集合住宅になる。そういうことを繰り返しているうちに、土地にまつわる因縁も複雑になっていく。本書で描かれる怪異の伝染の仕組みは、そういう土地の記憶が断絶した現代ならではのものになっているのです。
作品全体から著者の怪談観みたいなものが浮かび上がってくるところもおもしろい。明るいところで、一人じゃない時に読むことをおすすめします。
同時期に発売された『鬼談百景』と併せて読むとさらに怖いらしい!