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犬の健康を守るワクチンにも副作用が 原因や症状(2ページ目)

ワクチンは感染症から愛犬の体を守るためのもの。しかし、そのワクチンにも副作用があります。ワクチンと免疫の仕組みや、副作用の原因、症状、発生率など、飼い主が知っておきたいワクチンの副作用についてまとめました。

大塚 良重

執筆者:大塚 良重

犬ガイド

ワクチンによる副作用(副反応)の原因

子犬

高齢犬や幼齢犬、小型犬、体重の軽い犬では副作用が出やすいそうなので注意

さて、感染症から体を守ってくれるワクチンですが、副作用もあるのは事実です。なぜ副作用が起こるのでしょうか? (ワクチン接種による好ましくない反応を「副反応」と呼ぶそうですが、医師および獣医師であっても「副作用」という言葉を一般的に使うことも多いことから、ここでは「副作用」という言葉で統一します)

その原因としてワクチンに含まれるゼラチンやカゼインなどのタンパク安定剤、ワクチンの効果を補助または高めるために用いられる助剤としてのアジュバント、ワクチンを製造する時に使われる牛血清などが挙げられています。中でも、アジュバントを用いた不活化ワクチンは副作用を起こしやすいそうです。


副作用の症状

副作用の症状としては軽度のものから重度のものまであります。発熱や食欲の低下、元気がない、神経過敏、嘔吐、下痢などの全身症状や、赤みや腫れ、かゆみなどの部分的症状など。特に目や口の周りがぼこっと腫れたり(ムーンフェイス)、小さな丘疹ができたりという症状は特徴的です。

注意が必要なのは、アナフィラキシー反応と呼ばれるもの。副作用としては重度であり、早い場合はワクチン接種後数分で急激に起こり、呼吸困難、嘔吐、虚脱、粘膜が青白くなる、血圧低下、脱糞、痙攣、昏睡などの症状が見られ、早急に治療を施さなければ命に関わる場合もあります。

農林水産省動物医薬品検査所が行った「近年における動物用狂犬病ワクチンの副作用の発生状況調査」によると、アナフィラキシー反応については多くが接種後1時間以内に出ており、その他の症状(消化器や皮膚、神経症状など)については接種後4時間~3日以内に出るケースが多かったそうです。また、両方を合わせたすべての症状のうち73.3%が接種後12時間以内に起こり、亡くなったケース(アナフィラキシー反応であることが多い)に注目すると65.6%が接種後6時間以内に副作用が出ているとのこと(*3)。

この数字からもワクチン接種後は少なくとも3日程度は様子を観察してあげたほうがいいということがわかります。特に接種直後は興奮させたり、過度な運動などは避けるべきでしょう。もっと言うなら、万一何かあった時のことを考えると、動物病院で迅速に対応してもらえるよう、ワクチン接種は診療時間内のなるべく早い時間帯に済ませたほうがよりよいということにもなります。


副作用の発生率

先の「近年における動物用狂犬病ワクチンの副作用の発生状況調査」では年齢別の副作用発生状況も調べており、最も高いのは1歳未満の犬で、次いで10歳~12歳の犬が高かったそうです。また、体重の軽い犬や小型犬は副作用が出やすい傾向にあるという話で(*3)、そう聞くと接種するワクチンの量を減らせばいいのでは?と単純に考えてしまうかもしれませんが、ワクチンの場合は体重1kgに対して何mgというふうには計算されておらず、免疫を与えるための最低量に基づいて計算されているので、大型犬でも小型犬でも同じ量を接種しなければいけないということです(*4)。

そして、犬種別に見た場合、重篤な副作用の発生率はミックス犬がもっとも低く(0.09件/1万頭)、逆に他犬種より高かったのはパグ(1.52件/1万頭)、ゴールデン・レトリーバー(0.72件/1万頭)、フレンチ・ブルドッグ(0.41件/1万頭)だったそうです(*5)。

もう一つ、麻布大学獣医学部において2006~2007年の1年間にわたり狂犬病予防ワクチン以外の混合ワクチンによる副作用について調査した結果によると、573件の動物病院でワクチン接種をした5万7,300頭のうち359頭に副作用が出ていたそうです。これを計算すると約0.6%の確率でなんらかの副作用が出ているということになります。このうちもっとも多かった副作用は皮膚症状で244頭。アナフィラキシーは41例で、ワクチン接種後60分以内に発症しており、約半数が5分以内に発症しているということ。

副作用全体では多くのケースが接種後12時間以内に症状が出ているそうで、前出の狂犬病での副作用調査の結果とも合わせ、少なくともワクチン接種後12時間はもっとも注意が必要だということがわかります。また、この調査結果では、アナフィラキシーを含めた副作用および死亡例の率は海外に比べて日本のほうが高いとしています(*6)。

いっぽう、世界小動物獣医師会が出している「犬と猫のワクチネーションガイドライン(2015年改訂版)」では、ワクチネーション後の有害反応は比較的低く、ワクチン接種を受けた犬1万頭中30頭程度で、ほとんどが一過性の熱、嗜眠、アレルギー反応などの重篤ではない反応であるとなっています(*4)。

混合ワクチンについては数が増えるごとに、つまり対応する感染症の数が増えるごとに副作用のリスクが高まっていきますが、狂犬病予防ワクチンと比較した場合、混合ワクチンまたは狂犬病以外のワクチンの方が副作用の起こる率が高いようです(*3, 5)。中には何年もの間まったく問題が出なかった犬であっても、ある年に突然副作用が出たというケースもありますので、安心し過ぎるのも禁物でしょう。ワクチンに限らず、副作用が出た場合には薬事法によって報告することが獣医師には義務づけられており、そういったデータは農林水産省「動物医薬品検査所」のサイトで見ることができますので、気になる方はご覧になってみてください。

この記事はワクチンにおける副作用の危険性や怖さを煽るようなものでは決してありません。残念ながら副作用が出る確率がゼロというワクチンは存在しないでしょう。できれば薬剤に頼らず自然に過ごせたら何よりですが、副作用が出ることを気にするあまりにワクチン接種をしないというのは感染症にかかるリスクを背負うということでもあります。犬と暮らすオーナーとしては考えどころです。少なくとも、ワクチンについて何も知識がないままに愛犬に接種するということのほうがガイドとしては問題だと思えます。大切な愛犬の健康に関わること。基本的なことくらいは頭に入れておきたいものですね。

最後に、副作用についての継続的な調査や研究が進み、今よりもっと安全なワクチンが少しでも早くできることを願ってやみません。何より、その病気が根絶できれば一番ではあるのですが…。


出典および引用文献、参考資料:
(*1)ペットの健康管理意識調査(2012.3)/ペット&ファミリー小額短期保険会社
(*2)平成27年(2015年)全国犬猫飼育実態調査/一般社団法人ペットフード協会
(*3)近年における動物用狂犬病ワクチンの副作用の発生状況調査/蒲生恒一郎他、農林水産省動物医薬品検査所/日本獣医師会雑誌 Journal of the Japan Veterinary Medical Association 61, 557~560(2008)
(*4)犬と猫のワクチネーションガイドライン(2015年改訂版)/世界小動物獣医師会(World Small Animal Veterinary Association, WSAVA)、ワクチネーションガイドライングループ(Vaccination Guidelines Group, VGG)
(*5)日本における犬用ワクチンの重篤な副作用の発生状況調査/蒲生恒一郎(農林水産省動物医薬品検査所)、小林一郎/獣医畜産新報JVM Vol.67 No.2, p88-92
(*6)Large-scale survey of adverse reactions to canine non-rabies combined vaccines in Japan/Miyaji K, Suzuki A, et al./Vet Immunol Immunopathol 2012 Jan 15;145(1-2):447-52. Epub 2012 Jan 4.


関連サイト:
農林水産省 動物医薬品検査所

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※ペットは、種類や体格(体重、サイズ、成長)などにより個体差があります。記事内容は全ての個体へ一様に当てはまるわけではありません。

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