糖尿病は新薬競争が続く注目の分野です。新しいタイプの薬が続きますが、ターゲットとしているのは空腹時血糖か食後血糖のどちらかです。
健康な人の血糖値は食前の空腹時で81-110mg/dl、食後2時間値でも140mg/dl以下というごく狭いレンジに収まっています。これは糖尿病者ではとても実現できる血糖値ではありませんが、生活習慣の見直しと薬物療法でリスクを最小限に下げながら、少しでも正常値に近づけようとするのが治療の目標です。
このところ、インクレチン関連薬としてDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬がとても注目されていますが、これらは基本的に食後血糖値を下げる薬なのです。ですから、早朝空腹時血糖値が高い人が流行に乗ってインクレチンを主に処方されていたら、ちょっとピンぼけですね。
インクレチンのことは医師なら誰でも承知していると思うでしょうが、必ずしもそうとは限りません。例えば私はアルファ=グルコシダーゼ阻害薬のベイスンを食後に服用するように指示していた開業医がいることを知っているのです。ベイスンを食後に服用すると血糖が下がらないばかりか、お腹がゴロゴロと鳴って下痢をすることもあります。そんなことを我慢してはいけませんね。糖尿病は自分自身が治療に関わらなくてはならない病気です。
今回は誰も教えてくれない「血糖を下げる薬」のターゲットは何かを解説しましょう。
なお、血糖降下薬を大きく空腹時(食前)血糖降下薬と食後血糖降下薬に分けますが、食前血糖値が下がれば食後血糖値もそれなりに下がるわけですから、「適度に/明らかに」食前血糖値を下げるものを食前血糖降下薬と分類します。食後血糖降下薬も同様です。
[Statement by an American Assosiation of Clinical Endocrinogist / American College of Endocrinology consensus panel on type2 diabetes mellitus : an algorithm for glycemic control. Endocr Pract 15:540-559.2009]
空腹時/食前血糖降下薬
(適度に/明らかに空腹時血糖を下げる薬)
ビグアナイド薬メトホルミンなど
チアゾリジン薬
ピオグリタゾン(アクトス)
スルホニル尿素薬
グリメピリド(アマリール)など
配合薬
メタクト配合錠
中間型/持効型インスリン
NPH、グラルギン(ランタス)、デテミル(レベミル)
(注)スルホニル尿素薬は食後血糖値降下にも適度に効果があります。
食後血糖降下薬
(適度に/明らかに食後血糖を下げる薬)
速効型インスリン分泌促進薬ナテグリニド(スターシス)、ミチグリニド(グルファスト)
α-グルコシダーゼ阻害薬
ボグリボース(ベイスン)、アカルボース(グルコバイ)、ミグリトール(セイブル)
DPP-4阻害薬
シタグリプチン(ジャヌビアなど)、ビルダグリプチン(エクア)、アログリプチン(ネシーナ)、リナグリプチン(トラゼンタ)
GLP-1受容体作動薬
リラグルチド(ビクトーザ)、エクサナチド(バイエッタ)
超速効型/速効型インスリン
アスパルト、リスプロ、グルリシン、ヒューマンレギュラー
混合型インスリン
ヒューマログミックス、ノボラピット30ミックスなど
(注)混合型インスリンは空腹時もカバーするようになっています。
以上の薬のリストを頭に入れて、体系的な血糖自己測定のように自分の血糖プロファイルを時系列でチェックすれば、血糖コントロールの問題点が見えてきます。
- 低血糖(80mg/dl以下)がたびたびあるのなら、薬の処方量が多いか、服薬(注射)のタイミング指示が悪いことが考えられます。また、自己責任の生活行動としては薬の飲み過ぎ、服薬のタイミングを守らない、あるいは炭水化物の摂取不足、運動のしすぎなども該当します。
- 空腹時(食前)血糖値が目標よりも高いのなら、薬(上記参照)の用量不足、服用のタイミングが悪い、飲み忘れ、あるいは空腹時(食前)血糖に有効な薬が適切に処方されていないこともあります。
- 食後血糖値が目標よりも高いのなら、薬の用量不足、服用のタイミングが悪い、あるいは食後血糖に焦点を合わせた薬が処方されていない可能性があります。生活行動によるものとしては、服薬ミス(量・タイミング)、炭水化物の過剰摂取、運動不足などがあります。
前回記事では薬の飲み忘れ防止を考えましたが、服薬のタイミングがより重要なのが食後血糖値をターゲットにした薬です。
そのことをヒントに、もう一度薬の種類と用法を確認してください。
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