今月のテーマは…卒業式!
涙、涙の卒業式
拝啓 フジワラさま
降る毎に暖かくなる春先の雨の所為で、仄かに湿り気を帯びた空気に春の予感。フジワラ家の皆様もお元気にお過ごしでしょうか。
耳を澄ますと切ない卒業ソングが遠くから鼻声で聞こえて来る胸キュンの季節、私も遥か昔の記憶を辿り、甘塩っぱい気持ちを肴に酒が進みます。しかし母になって以来早16年、春すなわち専ら子どもの進級・卒業・入学シーズンでありまして、子どものために流した涙も幾リットル。
卒業式と言えば先生方と在校生、卒業生が一丸となり、素晴らしい当日のために美しい汗をかいて練習を重ねるものですが、その蔭で母達も卒業式「後」の謝恩会のために凄まじい研鑽を積んでいるということを、世間の皆さんは一体どのくらい把握なさっておいでだろうか、そう、本日のお題は「母達の卒業謝恩会」です。
どうしたことか学校役員やPTA役員を(人生修養を兼ねて)引き受けがちだった私、自分の子どもが卒業学年でなくとも学校行事の裏方として参加していました。年度末の総決算となる大ヤマはやはり「卒業謝恩会」、そこで見聞したものは母同士の政治的な駆け引きと分裂・融和、即ち「卒業したらこの人間関係も解散」の解放感(?)がもたらすらしき、壮絶な本音爆発の惨劇でした。
卒業式というのは、往々にして「進学」と表裏一体。お受験熱の高い地域の学校では、小学校受験なら秋、中学受験なら2月初旬まで、母達は修行僧のように禁欲的な日々を送り、人間関係も学校関係も地雷を踏まぬようにと自己を抑圧しているのです。
子どもの受験結果が出ると、人間関係は合格校のランクに従って変容し始め、「まさかのトップ校合格」生徒の母がにわかに頭角を現して謝恩会企画の陣頭指揮を執り、同じ学校に進む子どもの母同士で同じ余興係となり、残念な結果だった母がめっきり口数を減らして背景にそっと溶け込むようになります。
そして卒業式謝恩会当日。一張羅を着せられた子どもたち、朝早くから最前列ポジションをキープして撮影に徹する父達。この日のために一流コンサバブランドのスーツや和装でキメ込んだ母達は、子どもの晴れ姿に涙腺崩壊して1リットルの涙を流し(当然化粧直しもぬかりなく)、密かに母達の中でアイドル的人気のある男性教諭とのツーショット写真(子どもはどうした)撮影にも長い列ができるのです。
会場を移して謝恩会では司会進行の大役になぜか抜擢された政治力のない母が独り仕切り奮闘する中、ぬるく余興プログラムが進められ、「音が出ない」「小道具が紛失」などのトラブルにも、最早母達は「あ、それは○○さんに聞いて」と、腰を上げることはありません。
子どもたちが「大変タイヘン、A君がB君と喧嘩して叩いちゃったの」と報告しに来ても、2学期までなら消防のような初動フットワークで火消しに走っていたはずの母達も「あらー。ゴメンなさいしなさいって言っといてー」と、「もう明日からは他人」の解放感とビール一口のほろ酔いから、もうどうにでもなれと言わんばかり。
そんな「卒業謝恩会」、それは母達の人間関係の終焉/終演なのでしょう。子どもそっちのけで繰り広げられる母達の本音満載の姿を固唾を呑んで見守る、そんな季節。フジワラさんの卒業式や謝恩会はご無事だったことをお祈りしております。
頓首
カワサキ
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