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AIJ企業年金1900億円消失問題がもっとわかるQ&A(2ページ目)

約2000億円の企業年金が消えたというAIJ投資顧問のニュースで新聞は大騒ぎです。しかし、この問題、企業年金の運用を知らないと理解できないことも多いでしょう。年金専門家としてこの問題のポイントをまとめてみます。

山崎 俊輔

執筆者:山崎 俊輔

企業年金・401kガイド

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Q6)このような不正を予め見抜くことはできなかったのか?

A6)企業年金側が、この投資顧問が不適切な運用を行っていたことを事前に見分けることができたかといえば、これは難しかったであろうと考えます。年金運用のお金は世界中に投資されていますが、これを実際に現地に足を運んで確認することはできないからです。例えば個人の株式投資でも実際の株券はもうありません(電子化されている)。IT化やグローバル化された社会の運用では、何か実物をもって投資の実態を確認するようなことは難しいのです。
投資顧問会社および運用先のファンド、海外の信託銀行などが連携して不正な報告を行えばこれを検証することはほとんど不可能です。「資産運用といっても信頼は欠かせない要素であり、商売の仁義のレベル(ウソはつかない)で不正を行ったAIJ投資顧問が一番悪い」といえます。

Q7)それでも企業年金は悪くないのか?

A7)もし企業年金側に過失があるとすれば、事前に委託するときのチェックが適当であったかです。AIJの運用はどのようなマーケットでも常にプラスの運用成績を出したと報告していましたが、取材協力や情報開示は消極的であったとされ、第三者の意見を求めるなどして、営業のセールストークの嘘を見抜く努力をしていたかは問われます。
また、過重なリスクを取ることを承知で、運用の委託割合を高めすぎていた場合にそれは適当であったかが問題になります。運用の手法はリスクの高い方法を採用しているため、例えばこの投資顧問に対し、年金資産の20%以上を投資していた企業年金は「1社にリスクを偏らせすぎていた」といえます。その運用方針の決定プロセスが問われます。
ただし「意思決定プロセスが適切であれば、企業年金の運用担当者個人を責めるのは筋違い」です。

Q8)この投資顧問会社はかなり悪質ではないか

A8)この投資顧問が断罪されなければならないのは当然のことです。実際には損失が生じていることを知りつつ隠蔽してきたことは最大の問題ですし、資産は消失しているにもかかわらず、運用は好調であると偽ったデータを示して営業活動を続け、新規顧客から資金を獲得していた様子があります。これが事実であれば新しい顧客からの資金を解約等の資金に流用していた可能性があります。「このような投資顧問会社の例はほとんどあり得ないほどの悪質なものです」

Q9)今後、私たちの企業年金はどうなるのか

A9)適切な運用にもとづいた損失は、企業年金側が受け入れなければなりませんが、これはそうした損失ではありません。今後、AIJ投資顧問会社には損害賠償が提起されることになるでしょうが、その回収は困難だと思われます。そうなると、企業年金を実施する会社がその不足を補うことが次に求められます。しかし積み立て不足の補てんが企業の体力の限界を超える場合は、最後に給付の削減を検討することになるでしょう。ただし、前述のとおり、運用を委託した割合が最大50億円とされていること、一般的な企業年金では1社の投資顧問に10%以上委託することはまれであることから、年金が全額受けられないようなことは少ないと思われます。(ただし、すでに積み立て不足が多かった企業年金で、今回の損失がダブルパンチとなった場合には、積み立て不足が深刻になる可能性があります。個別の企業年金ごとに確認をしてください)

Q10)今回の悪質な不正行為からどう学ぶべきか?

A10)今回のケースは、運用でいったん失敗したもの(おそらくリーマンショック前後と思われる)を、顧客には隠し、好調な運用成果であったと報告したことにその起点があります。「運用手法が裏目に出たとしても、その結果をそのまま顧客に開示し、損失が生じた理由をきちんと説明して、その後挽回を期せば良かった」のです。どの金融機関もマイナスが出たときは、それをきちんと報告します

金融機関が他を出し抜こうと、自社の金融商品売り込みに邁進することはあります。しかし、嘘のデータをもって営業をするのは論外です。金融業界においても最低限度の「信頼」がなければビジネスは成り立ちません。個人や企業年金も、そうした最低限度の「信頼」は前提としてお金を運用に託しています。もちろん、ほとんどすべての金融機関は守るべき仁義は守りつつ、運用ビジネスを行っています。

今回の件で、「年金運用はリスクを取るべきではない」とか「監督体制を強化すべき」という声が出るでしょうが、現実的な議論に徹するべきです。余計な規制ばかり積み重なることのないよう期待します。一方で、企業年金サイドとしては、リスクを管理する方法をしっかり再検討していく必要があります。例えば、客観的な調査にお金を払ってでも、運用機関の信用を確認する努力や、どんなに好調であっても特定の金融機関に過度に依存しないような運用管理が必要です。
今回の件は、全ての企業年金はもちろん、全ての個人においても学ぶべきところがあると思います。他山の石とせず、自分の運用をしっかり行うためのヒントにしたいものです。

ちなみに、私個人の教訓は「どんな相手であっても、過度の信用は足をすくわれるもと」ということでしょうか
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