歴史を大切に、時代を紡ぐ「インディ500」
太平洋戦争期を除き100年に渡り、95回開催されている「インディ500」。当然のことながら、100年前のことを記憶し、つぶさに語れる人などもう存在しない。しかしながら、「インディ500」は積み重ねてきた歴史を古くから大切にし、レースの記録と写真、映像、エピソードなどがしっかりと残されている。スピードウェイの中にある「Hall Of Fame」ミュージアムはその歴史を感じることができる最高のスポットだ。ここには歴代のインディ500を戦ったレーシングカーが動態保存されており、 100年目となった昨年の大会時には歴代の優勝マシンが全米から集められ展示されていた。ミュージアムに展示されているのはマシンだけではない、歴代の優勝選手の肖像画はもちろん、レース運営に関わる備品まで展示され、様々な角度からその歴史を知ることができるのが特徴だ。
ミュージアム内のマシンを見ながら、親から子へ、子から孫へ、世代をこえてエピソードを語り継ぐことができる展示にはとにかく感銘を受けた。見学者の中にも祖父からマシンの説明を受ける姿もあった。
1911年第1回インディ500の優勝者、レイ・ハルーンが駆った「マーモンWASP」。現在も自走可能な状態で保存されている。
「インディ500」は同じ2.5マイルのオーバルコースで開催されている。天候などでレースが短縮された年もあったが、基本的には500マイルレースというフォーマットを変えずに続けている。マシンのイノベーション、変遷を誰が見ても感じることができる。歴史を残すという行為は、ヨーロッパに比べて歴史が短いアメリカ人のプライドのようにも感じられるものだ。「インディ500」に出場した全ドライバーの名前は毎年プレートに刻まれ、歴史を作った人々に敬意を払う姿勢は本当に素晴らしい。
地元メディアの熱烈な報道
インディアナポリスの街にとって最大のイベントである「インディ500」は地元のメディアでも盛んに報道される。特に地元の新聞である「Indianapolis Star」紙は一面から約10ページにも渡って、「インディ500」の特集を行う。インディ500決勝日の「インディアナポリス」紙の号外。一面はグリッド表。
その内容を見てみると、モータースポーツ専門メディア顔負けの充実したものであるから驚きだ。何周目に何が起きたかなどのラップごとのレポートはもちろん、専門家の分析、出場ドライバーの人となりが分かるエピソード記事など、とにかく紙面の内容が驚くほど濃い。レース日には街でグリッド表が一面になった号外が配られ、レースファンはもちろん、一般市民の関心を引きつける演出がなされている。日本では考えられない報道ぶりだ。この街でインディカーのレースが開催されるのは年に1度「インディ500」だけ。記者や編集者たちの努力を感じずには居られない。
決勝翌日の「インディアナポリススター」紙。優勝したダン・ウェルドンが達成した「インディ500」2勝目を「苦しみからの勝利」と表現。レギュラーシートを喪失したかつての大スターの復活劇を見事に表現した見出しだ。ウェルドンは残念ながら、2011年の最終戦ラスベガスの事故で帰らぬ人となった。
このように、「インディ500」というメガイベントを盛り上げる様々なファクターがインディアナポリスには揃っている。次のページでは、そのスピリットの部分を紹介。