不妊症/人工授精・体外受精・顕微授精

体外受精の適正回数について

先日、Fine祭りで知り合ったご夫妻とお話をしたところ、体外受精(顕微授精)を毎月実施しており、その数、累計で30回以上になっていると聞いて仰天しました。

執筆者:池上 文尋

先日、Fine祭りで知り合ったご夫妻とお話をしたところ、体外受精(顕微授精を含む)を毎月実施しており、その数、累計で30回以上になったと聞いて仰天しました。

奥様の年齢を聞くと44歳ということで、年齢的には厳しい状況なので頑張りたいというお気持ちは分かるのですが、あまりの回数の多さに驚きました。

最近の体外受精は麻酔技術も採卵技術も進歩し、患者さんに大きな痛みを伴うものではなくなりました。費用も回数の多い方に関しては割引制度が出来たりして、費用的に負担が減ったこともあります。また、高度生殖医療のメディアの報道も増えて、患者さんの心の垣根が低くなったこともあるかと思います。
IVF

毎回の薬の投与も身体に影響を与えます。


しかしながら、体外受精を繰り返し行なうということのデメリットもきちんと医療を提供する側で伝えて、きちんと確認するべきだと思うのです。患者さんが望むから「はいそうですか」と提供するというのでは医療者としてのモラルが欠けていると思われてもおかしくありません。

体外受精を繰り返し行なうデメリットは下記の通りです。

1) 自由診療なので費用的な負担が大きい
2) 低侵襲とはいえ、卵巣や子宮壁に針を刺す行為は身体に影響を与えている
3) 投薬があるので、薬の作用、副作用が与える影響の懸念
4) お金をかけているのだから子どもをどうしても作るんだという強迫観念を生み出す
5) 妊娠しても流産率が高いので、そのショックのフォローが難しい
6) 概して、高齢の方が多いので妊娠率はきわめて低い
IVF

細い針だとはいえ、何十回も子宮壁や卵巣に針を刺すのは身体に影響を与えます。


これらを本当にきちんと伝えているのか?また、患者さん本人の身体と精神状態の健康に留意し、リスペクトしているのか?

30回以上も体外受精を淡々と続けているその施設はその患者さんを思いやる部分が欠落していると思われても仕方ありません。

子どもがどうしてもほしいという気持ちは理解できます。しかし、40歳以上になると極端に子どもが出来にくい状態であること、子どもが出来ても流産する確率が高く、ダウン症などの発生率も高いことも考えると、適正回数の3~5回ぐらいで妊娠しなければ、次へのステップをじっくりと話し合う機会を持つことが重要だと思われます。

「自分の遺伝子を持つ子どもが欲しい、そして育てたい」、これは人間の本能です。しかし、その気持ちだけではどうにもならないことも多いのです。

一番大切なことはなんなのか?そのご夫婦の考え方にもよると思いますが、私は今、ここに生きている方の健康とその人生を大事にすることの方が重要だと思っています。

子どもがほしいのであれば、他にもチャンスはあります。卵子提供、代理母出産、養子、里親など、日本では倫理的に認められていないものもありますが、手段を選ばなければ子どもを授かり、育てる事は出来ます。

それもご夫婦の健康と経済的な余裕があってのことです。

だからもし、この記事の読者で同じような方(何十回も体外受精や顕微授精をされている)がおられたら、ふっと我に返って、自分達のこれからを考えて欲しいのです。
ICSI

顕微授精のラボ映像です。


もちろん高度生殖医療を続けて、子どもを授かる可能性はゼロではありません。しかし、10回以上行なって妊娠しなければその確率はかなり低いものです。そういうものに妄信的にしがみつくのではなく、建設的な行動に変換させることをお勧め致します。

夫婦二人の人生を豊かに暮らすもよし、上記のように海外でしか出来ない治療をトライされるもよし、養子や里親にチャレンジするのも良いかと思います。

繰り返される不毛な治療にお金をかけて、体力的にも精神的にも衰弱して、気がついたら全部すっからかんになるのだけは避けて欲しいと思います。

今回は自分の友人に相談に乗った感じで記事を書かせて頂きました。皆さんの人生に少しでもプラスになれたなら幸いに思います。

以上

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