今回は、山車や屋台が動き回る曳山祭として国内で大きな規模を誇る日本三大曳山祭の中から、毎年12月に行われる秩父(ちちぶ)夜祭をご紹介します。
贅の限りを尽くした華麗な笠鉾と屋台が街の中を曳き廻される中、打ち上げ花火が夜空を染める秩父最大のイベントは、訪れたら思い出に残ること間違いなしですよ。
秩父夜祭は日本三大曳山祭の1つ
秩父夜祭は、毎年12月に行われる秩父神社(Googleマップ)の例大祭。今のように屋台や山車が曳き回されるようになってから、すでに300年以上の歴史を持つ由緒あるお祭りです。 もともとは秩父神社のお祭りの時期にあわせて、絹や秩父の周辺で作られた物を取引する市が江戸時代に始まり、年月を経て、屋台と笠鉾が街の中を曳き廻す行事が加わったことで、今の秩父夜祭の形になったとされています。現在では京都の祇園祭(7月)、飛騨高山の高山祭(4月,10月)と並んで「日本三大曳山祭」の1つとして数えられており、毎年多くの人がお祭りを見に秩父を訪れています。 秩父夜祭の開催時期は、毎年12月1日~6日の6日間。中でも2日におこなわれる宵宮(よいみや)と3日におこなわれる大祭が中心です。
上町(かみまち)・中町(なかまち)・本町(もとまち)・宮地(みやぢ)の4台の屋台は、2日と3日の両方、中近(なかちか)・下郷(したごう)の2台の笠鉾は3日のみ街の中を曳き廻す姿が見られます。 笠鉾と屋台の装飾は、それぞれ個性豊かでかつ豪華絢爛そのもの。また屋台は両側を広げることで舞台が作れる構造となっており、この舞台を使って、毎年1台の屋台がお祭りにあわせて屋台芝居(歌舞伎)を披露します。
笠鉾・屋台の装飾をじっくり見たい場合は、日中に行われる屋台と笠鉾の曳き廻しを見るのがおすすめですよ。
夜の闇に映える提灯の明かり、笠鉾・屋台行列
秩父夜祭の見学でメインとされるのは、3日の大祭の夜に行われる笠鉾・屋台行列。秩父神社から御旅所に向かって、合計6台の笠鉾と屋台が順繰りに曳き廻されていきます。 笠鉾・屋台行列が秩父神社をスタートするのは19時からですが、行列が通過する沿道では、まだ空が明るい2時間から3時間前より観覧客の陣取りが始まります。沿道近隣のお店などでは有料の観覧席を設けているところもあるのですが、良い場所はすぐに埋まってしまいます。道幅の広い通りの歩道が無料観覧ポイントの1つとしてすすめられているので、まずは空が明るいうちに観覧する場所を決めましょう。
なお道幅の広い通りであっても、事故防止を目的として早い時間に歩行者の移動制限がかかります。この制限にかかる前に早めに腰を落ち着けた方がいいですね。 日が落ちて、観覧の人たちが待ちわびる中、御神輿と御神馬(ごしんめ)による御神幸行列が歩いてきます。 多くの人が歩いてくるこの雰囲気を感じると、いよいよ夜祭が始まる! という緊張感で胸が高まります。 御神幸行列が通り過ぎて、約30分ほど経過すると待望の笠鉾・屋台行列が到着します。
提灯にあかりを点した笠鉾や屋台は昼間の雰囲気とは一変。自ら夜の闇に溶け込み、神々しい雰囲気が漂います。 曳き手の皆さんのかけ声も加わって、笠鉾と屋台が通り過ぎる都度、観覧している人たちとの一体感が強くなっていきます。お祭りならではの感覚ですね。
笠鉾と屋台は行列と銘打つものの、実際には1台ずつ順繰りに20分~30分程度の間隔を空けて動いています。そのため6台の笠鉾と行列の内容をすべて見るためには、2時間程必要。
秩父は山あいにあり冷え込みも厳しいことから、防寒対策をしっかり備えて暖かい服装で笠鉾・屋台行列を観覧するようにしましょう。 また笠鉾・屋台の曳き廻しの見せ場の1つが、交差点を曲がる時の辻回し。15トン近くの重さがある笠鉾・屋台の進行方向を人の手だけで変えていきます。
かけ声にあわせて、注意深く前後に傾けて少しずつ向きを変えていく所を見るのは楽しいものですよ。
夜祭をさらに盛り上げる打ち上げ花火
秩父夜祭を盛り上げる存在として忘れてはならないのが、打ち上げ花火。 春は美しい芝桜が咲くことで知られる羊山公園を打ち上げ花火の基地として、笠鉾・屋台行列が動き出す前より散発的に花火を打ち上げます。 打ち上げ地点が近いこともあり、花火の光と共に響く音は迫力そのもの。笠鉾・屋台行列が動いている19時30分から22時にかけて、本格的に花火が打ち上がります。観覧ポイントによっては、笠鉾・屋台行列と花火を1つのフレームの中に収めることも可能。これぞ、秩父夜祭の醍醐味ですね。 多くの沿道の観覧客が見守る中、笠鉾・屋台行列は、最終目的地である御旅所へ向かいます。しかし、御旅所にたどり着く直前、笠鉾・屋台行列には、さらなる試練が待ち受けているのです。その試練とは? 秩父夜祭のクライマックスに迫ります!
踏切を越えて、急坂を登りきり、御旅所へ
街中を曳き廻されてきた笠鉾と屋台は、秩父鉄道 御花畑駅と西武秩父駅近くにある御旅所を目指します。この御旅所に至る直前、笠鉾・屋台行列にとって2つの難関が待ち受けています。 まず1つめの難関は秩父鉄道の御花畑駅に隣接する踏切を渡ること。笠鉾と屋台通行の支障になることから、秩父鉄道では、秩父夜祭の時は行列が渡る直前にこの踏切を含む前後の区間の電車は運休に。そして電車に電力を送り込む架線が邪魔になるため、踏切の上だけ取り外してしまいます。お祭りのためにここまで行うのは秩父だけ。鉄道よりも歴史を持つ古いお祭りならではの伝統ですね。 もちろん笠鉾・屋台が踏切を渡る時は、曳き手の息をあわせて慎重に通過していきます。 そして、踏切を渡った先、御旅所の直前に待ち構える団子坂の引き上げが、2つめの難関。人が歩いても良くわかる傾斜の急坂です。
坂の途中で後退すると大きな事故につながりますので、笠鉾・屋台の曳き手の皆さんは合図となるかけ声や笛、太鼓にあわせて慎重に息を整え、気持ちを1つにして団子坂を一気に駆け上り、最終目的地の御旅所に到着します。
まさにここが秩父夜祭のクライマックス。有料の観覧席以外では、団子坂の引き上げのシーンを目の当たりにすることはできませんが、太鼓や笛の音、曳き手のかけ声を間近で聞くだけでも十分に雰囲気を体感できますよ。 22時過ぎに6台の笠鉾・屋台が御旅所に到着することで、笠鉾・屋台行列は終了。先に到着している御神幸行列と共に笠鉾・屋台が一箇所に並ぶシーンを見ることができます。 ただし笠鉾・屋台行列が始まる前の18時前から22時過ぎに行列が到着して周囲の人の動きが落ち着くまでの間は、団子坂や御旅所周辺には有料の観覧席に行く人以外は立ち入ることができません。現場の案内に従って行動してください。 ちなみに取り外されていた踏切上の架線は、6台の笠鉾・屋台が通過した後、秩父鉄道の職員の手により、すぐに復旧されて22時半には電車が通れるようになります。
なお秩父鉄道、西武鉄道共に夜祭当日は臨時ダイヤとなり、数多くの電車を運行しますが、秩父夜祭を最後まで見ようとすると22時半を越えてしまいます。臨時ダイヤも含めてあらかじめ終電車を調べておきましょう。
また秩父駅へ向かうまでの移動も混雑で時間がかかりますので、その分の余裕が必要です。(ガイドが訪れた時は、御旅所から秩父駅まで歩くのに30分程度かかりました)
日本三大曳山祭の1つに数えられる秩父夜祭をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
笠鉾・屋台の曳き廻しと夜空に輝く花火の相乗効果で、街全体が盛り上がる秩父夜祭をぜひ見に行ってみて下さい。
秩父夜祭へのアクセス
地図:Googleマップアクセス: <鉄道>
・JR東日本 上越新幹線・高崎線 熊谷駅より秩父鉄道に乗車し、秩父駅または御花畑駅下車。
・JR東日本 池袋駅より、西武鉄道 特急「ちちぶ」または快速急行に乗車し、西武秩父駅下車。西武秩父駅と御花畑駅は隣接しています。 《注意事項》
秩父夜祭大祭当日(12月3日)の19時50分頃~22時30分頃まで、笠鉾・屋台行列に踏切を通過させるのため、秩父鉄道 秩父-黒森間の電車は全面運休し、代行バスを運行。
運休時間中、熊谷方面の電車は秩父駅から発車します。
<車>
・関越道 花園インターチェンジより、国道140号線と皆野寄居有料道路を経て、秩父市内へ。
または圏央道 入間インターチェンジから、国道16号線・国道299号線を経て、秩父市内へ。
秩父夜祭の期間中は、秩父市内への車の乗り入れが大幅に制限されるため、現場での案内に従ってください。
【関連サイト】 ◇「関東の名所」に、「名所・旧跡」ガイドで関東地方の名所・旧跡を紹介した記事の一覧をまとめてあります。