木というサステイナビリティ
書斎にかけられていた額。「木は そる 狂う あばれる 生きているから だから 好き」
子供の頃あつらえてもらったという小刀の刃がすっかり小さくなるまで使い続けるほど、木工を愛した秋岡さんは、こうもこうも語っています。「有史以来人類が使いなれて来た素材――石・鉄・銅・アルミ・ガラス・木――その中で人間が生産し得る素材が一つある。木だ。(略)木だけが地球最後の火まで人間が使える素材」(『日本人のくらし 木(しらき)』より)
1970年代当時、すでに予測されていた地球の人口70億に、ついに到達してしまった現在、「木」に代表される「サステイナビリティ」と、もっと真剣に向き合わなければならない時代となりました。秋岡さんの思想は、311以降の日本人のモノとの向き合い方に、大きなアドバイスを与えてくれることでしょう。
子供のような明るさと、よく動く手
秋岡さんが作り続けた竹とんぼの数々。愛飲していたウイスキーのボトルに、無造作に挿してあったという
多くの分野で活躍した秋岡さんが、終生作り続けたのは、展覧会場入り口に展示された「竹とんぼ」。生涯作品5000本とも8000本とも言われるその一本一本はすべて異なっており、美しさ、完成度の高さに驚かされます。
重い戦争体験を背負いながらも、子供のための創作を志し、「遊ぶ」心を忘れなかった不思議な明るさと、デザイナーでありながら自ら「手を動かすこと」を最も尊んだ秋岡さんの精神が、これらの竹とんぼたちに凝縮しているように思えます。そして、私たちの暮らしをシンプルに、美しくしてくれるものとは、この二つなのではないでしょうか。
目黒区美術館『秋岡芳夫展』2011年12月25日(日)まで
観覧料 一般900円 10時~18時 月曜休館
『割ばしから車(カー)まで』(復刊ドットコム、1600円)