って書くとすごく無味乾燥な事が書かれている難解な本に思えますが、取り上げられている内容は非常に興味深いことばかり。しかも、具体的なデータを伴っているケースが多いのでわかりやすくもあります。
大阪は「五・十日」に混むのか?
大阪で住んでいるor働いている方なら「五・十日に道路が混む」というのは、経験値としてお持ちでしょう。では一体どれくらい混むのか?少し古いデータ(平成10年)ですが、大阪府内の五・十日の渋滞時間は、それ以外の平日に比べて2割から4割程多くなっているとの事。では、なぜ混むのか?「五・十日は決済日だから」というのが一般的にいわれる理由。そこで終われば単なる「トリビア本」の域を超えないのですが、ここで著者はもう一歩突っ込みます。
著者が行き着いた結論は「顔を見に行くから」。金銭の決済だけなら振込で充分。宅配網やインターネットがこれだけ充実した世の中で、わざわざお得意先に足を運ぶのは「顔を見に行く」すなわち相手と会って信用を確認するいうのが理由だというのです。
大阪が「濃い」のは人口密度のせい?
大阪は「濃い」と評される事が多いです。ではなぜ濃いか?著者はその理由を「空間」と「歴史」の濃さに由来するものだとしています。「空間」の濃さは人口密度として現れます。大阪/東京/名古屋の文化圏をそれぞれ大阪平野/関東平野/濃尾平野エリアとして捉えて人口密度で比べると、大阪平野の人口密度は関東平野/濃尾平野のおよそ3倍!これは確かに濃い。
一方、「歴史」の濃さは都道府県別地積確定状況、すなわち土地の境界が画定されている割合から見いだしています。全国平均が43%であるのに対し、大阪府はなんと1%。えっ、1%!それって公道や役所関連以外は殆ど確定されていないという事では?
大和朝廷から始まる奈良県が8%、平安時代からの京都が6%であることなどから、「歴史の濃さ」と地積確定状況に相関関係を見いだそうとした著者の観点は、かなりマニアックなものといえましょう。
京都、滋賀、奈良も斬る!
この『土地の文明』では、他にも都市繁栄の絶対条件は何かという観点から京都/滋賀、交流軸と都市の盛衰という切り口で奈良の街を読み解きます。多少なりともそのエリアを知る人には興味深い記事となっています。関西地方以外では「最後の狩猟民族」として広島が紹介されているのが印象的でした。
この本で取り上げられているのは東京、北海道、鎌倉、新潟、京都、滋賀、奈良、大阪、神戸、広島、福岡。特別編として遷都についての話とソウルの清渓川(チョンゲチョン。河川上の高速道路を撤去した事で有名)が紹介されています。
街の歴史や文化について書かれた本は数多くあり、たくさん読んできましたが、これほどに切り口の斬新な本はなかなかお目にかかりません。ご自身が住んだ事のあるエリア、すんでいるエリアが書かれているのであれば、一読の価値有り!