翼状片の治療方針
前ページで紹介した翼状片の手術後画像。再発などのリスクについても理解する必要があります
しかし、後に述べますが、翼状片手術の最大の敵は「再発」です。翼状片の神様はものすごく怖い神様なのです……。
翼状片の手術時期・注意点
翼状片をいつごろ手術するか、これは医師にとってもたいへん難しい問題です。というのは、ただ取るだけなら何も考える必要がないのですが、翼状片の神様はとても恐ろしい神様で、普段はおとなしいのに、手術をすると、突然ものすごい勢いで再発することがあり、再発したら、たった2週間とか1ヶ月ぐらいで前よりもずっとひどい状態になって、患者さんにとっても術者にとっても大きな悲劇となってしまうからです。これまで翼状片の手術を多く手がけて気づいた法則は
1. 年齢が若ければ若いほど再発しやすい
2. 大きければ大きいほど再発しやすい
という2点です。この2つの要素が絡むゆえに、手術時期の決定が難しいのです。同じ翼状片なら、歳を取ればとるほど大きくなるし……。
ということで、正解はないとも言えるのですが、絶対に言える法則もひとつだけあります。それは、「最遅でも、翼状片が瞳にかかる前には手術を受けてください」ということです
というのは、翼状片は角膜に深く食い込んでいることがあるためです。その場合は手術をした部分の角膜表面がどうしても少しガタガタになって残ってしまいますから、瞳の部分に入ってから手術をすると、瞳の部分の角膜にガタガタが残る……すなわち視力障害が残ってしまうのです。
角膜の大きさが半径6ミリ、瞳の大きさが半径3ミリ(明るさによって変わるが)とすると、翼状片が3ミリになると瞳にかかり始めるということになるので、 2ミリぐらいで手術検討を開始という感じでしょうか。といっても、大きさを測定するのは難しいのですが、角膜半径が6ミリなので、その2分の1弱で検討開始、2分の1で手術を、という感じですかね。あくまでざっくりと、ですが。
私は、そこまで進行してなくても、ごろごろ感が強くてまいるとか、赤目がひどくて人目が気になってノイローゼになりそうだという人には、本人の希望があって再発のリスクを理解してくれる人には手術をしています。ともかくも再発リスクがあることをちゃんと了解しておくことが大切です。
翼状片の手術方法
翼状片の手術はやればやるほど奥が深いです。私のマイアミ留学時代の師匠、目の表面の疾患の世界的権威のTseng先生は、事あるごとに「イサオ、翼状片は絶対なめてかかるな。翼状片の手術を簡単だと言うのは目のことをわかってない医者だ。」とおっしゃっていました。私もその通りだと思います。翼状片は、角膜に入った部分と白目上の赤い部分をべりっとはがして切り取れば手術が終わるように思われます。しかし、それが悲劇の始まりです。
たとえばあなたの手の甲の皮をべりっとはがしてそのままにしておくとどういうことになるでしょうか? ものすごく長い間めちゃめちゃに痛くて、しかも治ってからもすごく汚い傷痕が残ってしまうことは、誰にでも想像できるでしょう。
目の表面も皮膚と基本は同じです。しかも、翼状片ができるということは、その部分がめちゃめちゃに弱いということであり、しかも、慢性的にひどい炎症が起こっているということです。そこの皮をべりっとはがしてそのままにしておくと、あとあとどんなことになるか……そら翼状片の神様も怒るはずです。怒り狂ったような勢いで再発するというわけです。
この方法は「単純切除」といいます。残念ながら、この方法で手術を受けると50%ぐらいは再発してしまうようです。自分はこの方法ではやっていないので正直細かい数字はわからないのですが。
さすがに50%も再発したら困るので、私を含む、翼状片の神様の怖さをちゃんと知っているドクターは「翼状片切除+自己結膜移植」という方法を採用しています。簡単に言うと、翼状片を切除して、その部分に上方から綺麗な結膜を持ってきて、糸で縫いつけて移植するわけです。この方法ですと、再発率を10%くらいまでには大きく下げることができます。
私はさらに細かいことにこだわって、再発率を1%以下にまで下げることに成功していますが、それでもゼロにはならないです。完全にゼロにするのは不可能なように思います。手術を受ける人は、再発しやすい体質でないことを祈りましょう。