痛み・疼痛/痛みの原因・痛み治療

レントゲンでは原因不明?! X線には写らない痛み

痛みを訴えて、CTスキャンやMRI検査を行ったのに、明らかな原因がわからなかったことはありませんか? 異常なしと言われて、かえって不安が募ることもあります。今回は、そんなあなたの、痛みと正しい画像検査結果の受け止め方をお話します。

富永 喜代

執筆者:富永 喜代

医師 / 痛みの治療・麻酔ガイド

MRI検査、腰痛症、原因、診断方法

MRI検査に異常が無いから、異常があるはずはない、という考えを、医師と患者さん両方が改めましょう

「こんなに痛いのに、血液検査もMRIもCTも異常が無いんです。先生、この痛みの原因は何でしょうか?」とおっしゃる患者さん。これまでに数軒の整形外 科を受診し、果ては大学病院まで渡り歩き、それでも原因がわからない、と訴えます。これは、本当に異常が無いのでしょうか?

腰痛症で原因がわかるのは、たった5人に1人と言われています。MRIやCTなど画像診断でも原因がはっきりしない痛みもあることを認識し、不安症や不眠症、痛みにとらわれないようにすることが大切です。

今回は、皆さんが絶対だと信じているCTスキャンやMRI検査など画像診断と痛みについてお話しします。

診察から画像検査へ

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MRI検査で腰痛の原因が判明する確率は、20~25%しかありません

まずは、腰痛を例に説明しましょう。患者さんは、いつから、どんなきっかけで、腰のどの部位が痛いのか、足の異常はないか?などを問診で答えます。そし て、触診や詳しい診察を経て、一般的な血液検査や腰のX線撮影を行い、何か異常がないかを調べます。しかし、この診察で明らかな異常が見つからない場合も あり、その場合には、医師の判断でさらなる画像検査であるCTスキャンやMRI検査が追加されます。

CTスキャンとMRI検査

CTスキャンとは、コンピューター連動断層撮影のことです。体に対して連続したX線を投影することで、体を通り抜けたX線の変化情報を、コンピューターで 連続計算します。その計算された変化を、コンピューターが処理した体内の画像として私たちは見ているのです。特に、骨の変化には鋭敏で、有用性が高いこと が分かっています。

MRI検査は、核磁気共鳴画像法のことです。MRI装置は、電流が流れる大きなコイルによって電磁石を作り、そこに磁場を作ります。患者さんは、そのコイ ルの中に体を入れます。すると体内の組織によって磁場の反応が異なるので、その差をコンピューターが計測するのです。私たちは、コンピューターでその差を 強調して処理された画像を、体内の様子として見ています。MRI検査は、X線検査やCTスキャンのように被曝がないというメリットがあります。また、脳や 脊椎、関節の内部構造、血管の病変など、CTスキャンやX線検査ではわかりにくい組織も画像に映し出すことができ、早期発見と診断にとても有効です。

5人に1人しか原因が分からない? 画像検査診断への絶対神話

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X線検査には、痛みは映りません

CTスキャンやMRI検査画像診断の発達により、私達は手術をしなくても、体内の様子が手に取るように見える環境になってきました。にもかかわらず、ひどい痛みがあるのに、画像診断では異常が見つからない患者さんはとても多いのです。

報告にもよりますが、腰痛を訴えた患者さんの場合、明らかな異常がMRI検査などで見つかる割合は、たった20~25%。即ち、腰痛症の5人のうち1人し か、異常は発見されないということです! ですから、もしあなたが腰痛を訴えて、いろいろな検査を行ったにもかかわらず、「異常が見つからなかった」という結果は、全く異常なことではないのです。

しかし、現代の日本人には、画像検査診断技術への絶対神話があります。MRI検査でも異常がないのだから、もっと難しい厄介な病気が隠れているに違いな い、と思い込み、患者さんは、さらなる不安に駆られます。その結果、次の病院、さらに次の検査を行って、原因探しとドクターショッピングが止められなくなるのです。

「異常無し」の結果を、嬉しく受け入れること

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MRI検査で年並の変化しかないといわれたのに、なぜ激痛を訴える患者さんがいるのでしょうか?

原因を突き止めることに必死になってしまった患者さんは、「異常無し」の結果を、素直に受け入れることができません。「こんなに痛いのに、私の場合、原因がはっきりしない。これでは、異常が見つかって、はっきりした方がましだ」と考えるようになっています。

このような患者さんをみかける度に、「異常無し」の受け止め方の方向性が間違っている、と私は考えます。「異常無し」ということは、骨折や感染がなく、もちろん癌のような命に関わる病気がないということですから、本来、とても喜ばしいことなのです。画像診断異状なしということは、「あなたは大丈夫ですよ」 というお墨付きをもらった、と捉えるのです。

なぜなら、人が経験する痛みの原因が、全てはっきりわかっているわけではないのです。特に腰痛症の場合では、わからない人のほうが圧倒的に多いことを述べ ました。さらに、痛みの難しいところは、たとえ原因が手術などによって完全に除去された場合でも、しつこく痛みだけが残る場合もあるのです。必要以上の 「痛みの原因探し」で疲れ果ててしまっては、不眠症やうつ病を併発することも。ですから、画像診断で「異常無し」の結果を、嬉しく受け入れましょう。その ほうが、患者さんにとってメリットが多いのです。

柔らかい餅と硬い餅の違いがわかるだろうか?

つきたての美味しく柔らかいお餅と、一週間放置した同じ色、大きさ形のお餅があります。もちろん、触ったり食べたり、もしくは肉眼で近づいて見れば、その 違いはわかりますよね。しかし、これを3m離れた距離から同じ場所、背景で写真撮影して、写真だけで、この2個のお餅の質感の違いがわかるでしょうか?

痛みを訴える神経の 画像診断は、これに似ていると思います。実際触ってみることができない、体の中の神経。痛みを訴えている神経が、形態に異常があるわけでもないのです。長 年、痛みを感じ続けたため、神経の可塑性(かそせい)と呼ばれる、質の変化を来しているだけです。もちろん、神経が萎縮したり、変性が末期的になっていれ ば、画像検査でも判別できるでしょう。しかし、初期の段階において、正常な神経か痛みを感じている神経なのかは、最新機器でも簡単には判別できないのが現 実です。

画像診断結果で一喜一憂しない

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MRI検査やCTスキャン結果が、常に症状と一致するわけではありません。結果に、一喜一憂しないことも大切なのです

確かに、画像診断技術の進歩によって、体内のより多くの情報が、手に入るようになってきました。しかし、画像情報だけでは説明のつかない、痛み患者さんは 沢山いらっしゃいます。例えば、大きな腰椎椎間板ヘルニアがあっても、日常生活に支障を来たすことなく、普通に生活を送っている患者さんがいる一方で、画 像上は年並の経年変化しか認められないにもかかわらず、激痛のため、日常生活の制限を強いられている患者さんもいるのです。この差は、画像診断だけでは判明しません。

医療とは人を扱う業務であり、スキャンを扱っているのではありません。特に、慢性の痛みを訴える患者さんには、痛みを引き起こす多くの要因が複雑に絡み 合っており、スキャンだけが決め手にならないことも多いのです。患者さんは、自分の症状や訴えと画像診断結果に乖離があっても、一喜一憂しないこと。そし て、画像情報が多いことに越した事はないけれど、その結果だけが全てではないことを、痛みを抱える患者さんと医師は真摯に受け止めることが大切です。


写真提供:ペイレスイメージズ


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