腰部脊柱管狭窄症とは

腰痛

腰痛、下肢痛、下肢しびれなど……腰部脊柱管狭窄症では、歩行困難なほどの症状が出ることも

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)とは、腰痛、下肢痛、下肢しびれ、下肢の筋力低下、膀胱直腸障害、間欠性跛行などの症状が起き、仕事、日常生活に支障を生じてしまう病気。

以下の記事は実際の患者さん(65歳・男性・Aさん)のケースを元に、その体験を加工して記載してあります。腰部脊柱管狭窄症の症状、診断、治療、手術、手術費用などの理解を深めて下さい。

腰部脊柱管狭窄症の症状

Aさん「2010年8月、もともとあった腰痛、下肢痛が強くなってきました。5分間ほど歩くとしびれが強くなり歩行ができなくなり、うずくまるようになりました。しばらくその場所で休むと、歩行を開始することはできるようになりますが、5分間歩くとまたしびれが強くなり休みが必要な状態に……。この経験はいままでなかったので近くにある整形外科のクリニックを受診しました。」

Aさんに起きたのは、「間欠性跛行」という症状です。この間欠性跛行は腰部脊柱管狭窄症の主要な症状ですが、閉塞性動脈硬化症などの血管性病変でも同じ症状が発生します。血管性と神経性のどちらが原因となるのかを鑑別するテストが「自転車テスト」です。自転車でも間欠性跛行が生じた場合、血管性病変であると判定します。間欠性跛行が歩行では発生し、自転車では発生しない場合、神経性病変と判定します。また血管性病変は「血管外科」を受診すれば病変の有無を判定できますので、その方がより確実です。

またAさんに見られなかった症状として、会陰部の灼熱感、疼痛、直腸膀胱症状(初期は便秘、排尿困難からはじまり最終的に尿失禁、便失禁となる状態)、持続性勃起などがあります。

腰部脊柱管狭窄症の診断

■単純X線(レントゲン)
2010年8月にAさんがクリニックで撮影した単純X線写真です。
腰椎単純X線写真

腰椎単純X線写真 側面像

単純X線写真は放射線被爆量も少なく、費用もわずか。その場で撮影も終了し当日説明をうけられるので、整形外科では必ず施行します。

腰椎は5個、体の中央にあります。頭側は胸椎と関節でつながり、足の方向では骨盤の一部である仙骨という骨とつながっています。5個の腰椎の間にはさまる構造が椎間板という軟骨です。椎間板は加齢で変性し、しだいにつぶれ、厚みが薄くなります。Aさんの写真では、第4腰椎と第5腰椎の間の距離が狭くなっています。椎間板はレントゲンには写りませんが、スペースとして認識できるのでおおまかな情報は得られます。

次に第4腰椎が第5腰椎に対して前方に移動していることがわかります。「脊椎すべり症」という疾患です。この病気は腰痛の原因となる疾患で、通常スポーツ外傷のあとに発生する、上下の腰椎の関節が離断した状態です。ラグビー、柔道、テニスなどのスポーツでよく発生します。この「すべり症」も腰部脊柱管狭窄症の原因の一つです。この2つがレントゲンの所見です。

次にMRI撮影の予約、投薬(鎮痛剤、胃薬)、コルセットの装着、牽引療法の指示が出ました。費用は初診、3割負担の健康保険で3,000円ほどでした。

■MRI
MRIは専用の病院で撮影を行いました。
MRI

MRI写真 腰部脊椎が前方から強く圧迫されています 椎間板が狭くなっていることもレントゲンより鮮明にわかります

MRIは磁気を使用して人体の断面写真を作成する医療用機器です。被爆がないのが最大の特徴です。欠点は費用が約1万円程度と高額な点、狭い部屋に15分間ほど閉じ込められて、騒音が強いことです。脳外科の術後で体内に金属が残っている人、心臓ペースメーカー装着の人、閉所恐怖症の人などではMRI検査が無理なため、CTで検査を行います。CTの検査費用は5,000円程度と、MRIより安くなりますが、被爆があります。

■脊髄造影
保存的な治療で改善がみられない場合、運動麻痺、筋力低下がある場合、手術を考慮します。クリニックの紹介で総合病院の整形外科外来を受診、術前の検査として、脊髄造影、造影後のCT検査、神経根ブロックが指示されました。4日間入院してこの3つの検査を受けました。費用は3割負担で10万円でした。

脊髄造影単純X線写真

脊髄造影X線写真 右第4腰椎第5腰椎間で脊柱管が圧迫されています



脊髄造影X線写真

脊髄造影X線写真 側面像でも同様に第4腰椎第5腰椎の間で 脊柱管が圧迫されています


■脊髄造影後CT撮影
単純X線だけでなく造影後の状態でCTを撮影すると断面像が得られ、より細かい診断が可能です。
脊髄造影後CT 正面像

脊髄造影後CT 正面像 単純写真より細かい狭窄がわかります


脊髄造影後CT 側面像

脊髄造影後CT 側面像 同様の所見です



■神経根ブロック
狭窄されている神経に直接麻酔薬を注射します。この麻酔で一番主訴となっている症状が解消されていれば、手術の効果が期待できます。


右第5腰椎神経根ブロック

右第5腰椎神経根ブロック


麻酔薬の注射後、腰痛、下肢痛、間欠性跛行は消失しました。効果の切れたその日の夜に、再度腰痛、下肢痛、間欠性跛行が再発しました。

この入院で、総合病院での脊柱管狭窄症の手術を受けることを決めて、1ヵ月後の入院を予約しました。


腰部脊柱管狭窄症の治療

■腰によい姿勢の保持
中腰、椅子に浅くかける姿勢が腰に負担がかかります。引越しや重い荷物を運ぶ際には、背筋を真っすぐ伸ばして腰を屈めて荷物を持ち上げると、腰に負担が少ないです。

■日常生活の改善
自転車の使用、手押し車の使用などが腰に負担が少ないです。

■鎮痛薬
ボルタレン、ロキソニンなど非ステロイド消炎鎮痛薬( NSAIDと省略されます )。
ボルタレン 1錠15.3円で1日3回食後に服用。副作用は胃部不快感、浮腫、発疹、ショック、消化管潰瘍、再生不良性貧血、皮膚粘膜眼症候群、急性腎不全、ネフローゼ、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、肝障害、ライ症候群など重症な脳障害、横紋筋融解症、脳血管障害胃炎。

ロキソニン 1錠 22.3円で1日3回食後に服用、副作用はボルタレンと同様。

どちらの薬でも胃潰瘍を合併することがありますので、胃薬、抗潰瘍薬などと一緒に処方されます。5年間、10年間の長期服用で腎機能低下などの副作用がありますので、注意が必要。稀に血液透析が必要となる場合もあるので、漫然と長期投与を受けることはできる限り避けて下さい。

■血行改善薬
オパルモン 血管拡張作用により神経に血流を増加させ痛みを減少させる作用を持ちます。1錠78.5円を1日3回服用します。6週間の服用で56%の改善率があります。副作用ですが、胃部不快感、発疹、頭痛、頭重感、下痢、貧血などがあります。

■軟性コルセット
腰椎圧迫骨折やすべり症の初期で腰椎の強い時期には「硬性コルセット」といって硬いものを使用しますが、日常生活に支障がでます。脊柱管狭窄症や腰痛では「軟性コルセット」を使用します。腰痛ベルトとして知られています。
ベルト

軟性コルセット 起き上がるとき 歩行時などに腰椎を安定化し 痛みを和らげます

■リハビリ
最初のクリニックでは、投薬とコルセットに加えて、腰椎の牽引の指示をうけ、週3回の通院を1ヶ月間行いました。多少の改善は認めましたが、間欠性跛行は消失することはなく、日常生活の不便は解消しませんでした。リハビリは腰部脊柱管狭窄症には客観的な効果は乏しいようです。

腰部脊柱管狭窄症の手術

検査入院の1ヶ月後に、手術治療のための入院となりました。入院期間は2週間、費用は3割負担で30万円、高額医療の対象となるため、2ヵ月後に22万円が保険組合から返金となりました。

■除圧椎弓切除術
神経に対する圧迫を除去するために、骨成分である脊椎の椎弓と呼ばれる部位を切除する手術です。

 

椎弓切除術undefined広範囲に骨を切除しundefined神経に対する圧迫を解除します

椎弓切除術 広範囲に骨を切除し 神経に対する圧迫を解除します


この手術は骨切除だけの手術であるため合併症は少なく、手術時間も短いです。Aさんの場合「骨すべり症」を合併しているため、腰椎の安定性が問題があるため、次のPLIF手術を受けました。

■PLIF手術 (Posterior Lumbar Interbody Fusion Surgery) 後方腰部脊椎固定術

脊椎の安定性に問題があるAさんの場合、除圧して神経の圧迫を解除するだけでなく、切除を行った腰椎に骨移植を行い、腰椎を固定します。

後方腰部脊椎固定術

後方腰部脊椎固定術


2週間の入院で退院した後は、比較的楽に歩行も可能となりました。間欠性跛行は消えましたが、安静時の疼痛、しびれは残存しています。手術を受けても安静時の疼痛は完全には消えない場合が多いです。

それでも歩行が自由にできるようになり、日常生活の自由度が増したのでAさんは満足しています。
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