自分がいつ介護に関わるかは、誰にもわからない
「いつ頃から、介護についての準備を始めればよいでしょうか?」これは、ガイドである私が介護についての講演をさせていただく際によく聞かれる質問です。これに対して、私はいつも「気がついた今から、準備にかかってください」と答えることにしています。私の両親が相次いで心身の調子を崩して介護が必要になった頃、私自身はまだ34歳で、母は65歳。お互いに介護の「か」の字も意識していませんでした。当時の私が介護についてある程度の知識を持っていれば、もっと心に余裕を持ちながら両親と向き合うことができただろうな、とつくづく思います。
正直なところ、介護は決してラクなものではありません。ただ、それだけに正しい知識を持って、要介護者に接したり、さまざまな制度やサービスをフル活用することが重要です。負担を少しでも軽くすることで、長期にわたる介護生活を、無理の少ない「日常」として暮らしていけるようになるからです。
現在、介護を行っている人はもちろんですが、まだ介護をしていない人にも、いざというときに備えて介護について学んでほしいですね。
豊富なメニューが詰め込まれた『介護ナビDS』
「介護ナビDS」は、その名の通りニンテンドーDS用のソフトです。「ゲーム機で介護?」と疑問に思う方もおられるかもしれません。私自身、最初は「なんでDSなんだろう?」と疑問に感じました。しかし実際に使ってみると、よく考えられた組み合わせであることがわかります。
「介護ナビDS」には、次の5つのメニューがあります。
1.勉強したい
- 日常介護問題(200問)……日常介護の基礎知識についてのミニテスト。1回の問題は5問で、空いている時間に気軽に挑戦できる。
- 資格試験問題(600問)……介護福祉士レベルの問題に挑めるミニテスト。問題はジャンルごとに分かれており、1回あたり10問。
- 介助ナビ……片マヒの人に対して、着替えや入浴、移乗、食事などの身体介助行うときのポイントを、ステップごとにイラストで解説。
- 辞書……難しい介護関係の用語を、シチュエーション別や50音順で調べられる。
- 介護者の健康管理……介護者に起こりがちな腰痛や肩こりなどを防ぐ体操や、お腹まわりの筋肉を鍛えて疲れにくくする体操について学べる。
- ケアプラン……ケアプランを作成するときのポイントや、要介護度別のケアプラン例などを解説。
2.介護疲れを癒やしたい
- 元気度チェック……簡単な質問に答えると、自分の精神状態をチェックできる。
- 心のケア……介護に対する考え方や、心の持ちようについてのアドバイス。
- 格言集……介護で心が疲れたときに読めるよう、「愛・希望」「生き方」など、さまざまなテーマごとに格言を紹介。
- 介護記録……いつ、どんな介護を行ったのかや、要介護者の体温や血圧などの情報を2年分記録できる。
- 会話補助……話すことがうまくできない人や、耳の聞こえない人との会話をスムーズに行うためのツール。
- 認知症チェック……質問に答えていくと、認知症についての疑いをチェックできる。
- 目のチェック……モグラ叩きゲームを通して色の識別機能を計り、白内障の疑いをチェックできる。
- 要介護度シミュレーター……要介護認定を受けられるかどうか、要介護度がどれぐらいになるかを調べられる。
- 床ずれの危険度判定……床ずれ(じょくそう)の危険度を簡単に測定できる。
4.知りたい
- 介護サービスの受け方……介護保険サービスの利用法や、どんなサービスがあるのかを解説。
- 自分や家族の介護生活シミュレーション……自分や家族に介護が必要になったら、どんなことが必要になるかについてシミュレーションできる。
- リバーシ……介護の合間の息抜きゲーム。
- 15パズル……介護の合間の息抜きゲーム。
- トランプパズル……介護の合間の息抜きゲーム。
【インタビュー】「介護ナビDS」開発者がめざしたものは?
「ニンテンドーDSで介護について学ぶ」という新しい学習スタイルを提案した開発者は、開発にあたって何を考え、何をめざしているのでしょうか? 企画・プロデュースを行った株式会社ア・ライブの田尻社長に、気になる部分を直接伺いました。横井 「そもそも、このソフトを開発したきっかけは?」
田尻社長(以下、田尻) 「若い頃に母の介護を経験したんですが、まだ介護保険もない頃で、すごく大変でした。兄弟で助け合いながら介護にあたっていたのですが、入退院を繰り返しながら苦しむ母の姿を見続けることになり、母が亡くなる頃には『介護はツライ。介護になったら救いがない』と考えるようになっていたんです」
横井 「そのお気持ちは、よくわかります」
田尻 「その後、私のなかで介護というものに対する気持ちが大きく変わったのは、平成19年に亡くなった従兄弟のおかげなんです。彼は20代半ばのときに脳梗塞で半身の自由を失なったんですが、障害者のバレーボールであるシッティングバレーで全国大会に出場したり、地域のパソコン教室で講師を務めるなど、前向きに生きていました。そんな従兄弟が福祉用具の事故のために突如亡くなってしまったとき、当初はごく身内だけの葬儀を行う予定だったのですが、どこで情報を聞きつけたのか次から次へと多くの弔問客がお越しになり、心から彼の死を悼んでくれました。その姿を見ているうちに『やりようによっては、介護もツライだけのものじゃなくなるのではないか』と気づいたんです」
横井 「なるほど」
田尻 「その後、ゲーム関連の会社で働く古い友人との再会や、多くの方々の協力を得ることができ、『介護ナビDS』の開発・発売を実現できたというわけです」
横井「田尻さん自身の経験や思い、それを支える多くの方の力が一つになったソフトなんですね。どんな方に利用してほしいとお考えですか?」
田尻 「まずは、そろそろ介護のことが気になりだしている方。さまざまなチェック機能やシミュレーターで、介護の必要度や介護が起きたらどうなるかを知っていただきたいです。次に、介護をし始めたばかりの方。介護についてのノウハウを学んでいただいたり、心のケアによって介護ストレスを軽減していただきたいですね。そして最後は、介護職をめざす方。ちょっとした空き時間に資格試験問題を解いて、基礎的な力を養っていただきたいと思います」
横井 「現在、介護をしている方にメッセージをお願いします」
田尻 「介護をツライだけのものにしないためには、介護というものについて知ることが大切です。『介護ナビDS』をはじめ、さまざまなツールや機会を生かして、介護についての知識を増やしてください」
実体験を通して「気づき」を得た後は、ただひたすらにソフトの開発に取り組んできたという田尻社長の言葉には、「介護についての知識を持つ人を増やすことで、介護で苦しむ人を減らしたい」という強い信念が感じられました。
今後のシリーズ化にも期待!
インタビューの合間に、「まだまだ、やりたいことはいっぱいあるんです」と語った田尻社長。確かに介護について必要な知識は非常に幅広く、既存のノウハウ本やサイトなどで発信されている情報には難解なものが少なくありません。将来的にはシリーズ化も考えているとのことなので、これからの展開にも注目していきたいですね。>「介護ナビDS」公式サイト