ケース
リーダーシップ論の授業では、リーダーを中心とした3者の関係を理論的に理解するだけではありません。ケースを利用して、実際のリーダーが直面した問題を考え、リーダーがこの3者の関係をどのように整理し、リーダーとしての行動をとったのかを学んでいくことになります。例えば、ハーバードビジネススクールのケースに、日産のCEOゴーン氏を取り上げたものがあります。ゴーン氏がフランス企業から送られたブラジル人として、歴史がある一方で経営的に厳しかった大企業「日産」の社長になり、日本的な経営に慣れ親しんでいた日本人社員と向き合い、経営再建に関係する銀行などの対外関係を対処し、日産を変革していった過程が書かれているケースです。
ビジネススクールでケースを利用する場合、ゴーン氏のとったリーダーシップがどのような効果を出したのかまでは書いていなく、最初の取組みのみが書かれています。このケースを読み、あなたがゴーン氏だったら他にもっといいリーダーシップをとれなかったのか、などをチームで最初に話し合い、そして教室で先生を交えて深く議論していくのです。授業の最後になって、ようやく結果が伝えられます。
ビジネススクールでよくあるのは、ケースを議論しつくした時点で、そのケースの主人公であるリーダーが教室を訪問し、ビジネススクール学生がリーダーと直接リーダーシップについて対話をする授業です。ガイドは、INSEADで、現在日本に上陸しているイタリアのカフェチェーン「セガフレード」のケースを学び、実際「セガフレード」のCEOと海外担当役員と欧州企業のアジアでのリーダーのあり方を議論したことは、リーダーシップ論の深い理解につながりました。
演習
最近のMBAのリーダーシップ論の授業では、リーダーを理論的に分析したり、過去の成功したリーダーをケースとして取り上げて行うリーダーシップ論に加えて、「自らの内面との対話」を演習で行うケースが増えています。「部下への指示」「人間関係」「対外関係」を行う全ての源泉は個人であり、その行動の基礎にあるのが内面・精神面であるという考え方からです。日本人は、リーダーの精神論を説くことが一般的なので、当たり前だと思われるかもしれません。しかし、ビジネススクールはこれまで西洋的なアプローチでリーダーを科学としてとらえ、成功するリーダーシップを研究してきました。したがって、最近になるまでリーダーの精神論はあまり分析の対象とされていなかったのです。西洋的なアプローチでリーダーシップ研究が行き着いた先が精神論であったことは非常に面白いと思います。
一方で、「自らの内面との対話」として、精神面を科学的に捉えるのは、日本人が精神面を根性論的に捉えるのと対照的で示唆に富みます。欧米のビジネススクールではどのように行っているのか見てみましょう。
欧米のビジネススクールでは、演習形式で「自らの内面との対話」を通じてリーダーシップを学びます。スタンフォード大学ビジネススクールやウォートンでは、自らの内面と対話するために、15回の授業をかけて自らの過去を振り返り、大切にしている価値観を探り、将来への夢を描くリーダーシップ演習が行われています。A4で平均80枚程度の「自分史」を最後に仕上げるのです。「自らが変わり、組織を変え、最後には世界を変える」ためのリーダーシップ論の授業は、最近人気です。
リーダーシップは、自らの内面を理解し、リーダーシップを理論的に理解した上で、最終的には自らが実践しながら独自に学んでいくものです。ただ、実践でリーダーシップを学ぶ際に、ある程度理論的な側面をしっておくと、学ぶスピードが速くなり、成功する可能性が高まるのも確かなのです。
【参考文献】
厳しい時代を乗り越える強いリーダーがするべき88のこと
ガイドがMBA(INSEAD)の授業やビジネススクール(ウォートン、IMD、HEC)のエグゼクティブプログラムで学んだリーダーシップ論、その理論を外資系企業の役員として実践してきたノウハウをまとめたものです。
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