若い医師は懐中電灯での出産を知らない
現代の出産は電気に支えられている
「都内でも、今回の計画停電に十分対応できるほど予備電源にゆとりがある病院は、ほんのひとにぎりでしょう」と言うのは大川豊医師(東京都日野市・大川産婦人科院長)です。「まして個人開業のクリニックではかなり限界があります。私のところでは停電後に電灯をつけておける時間は30分程度です」
ただ、大川院長は停電が多かった戦中・戦後の医師たちに指導を受けたので、現在も妊婦健診、分娩業務ともに計画停電時間内でも受けています。大川院長の修行時代は「停電だからとお産がとれないのでは産科医はつとまらない」と言われた頃で、ご自身も懐中電灯の分娩を経験してきました。今は、胎児心音は、充電式のドップラーという機械でチェックすることもできます。「でも」と大川医師は言います。「50代より若い先生にこれと同じことを求めるのは無茶です。お産は、本当は人も動物も外敵に見つかりにくい暗闇で産むのが自然の姿。でも、現代の産科は電気なしでは成り立ちません。」
自然出産にも、電気の必要な検査がある
電気がなくてもお産ができる施設の代表は助産院ということになりそうですが、ここも、支障がないというわけにはいきません。杉山富士子助産師(東京杉並区・ファン助産院院長)はもともと医療機器は充電式の胎児心音ドプラーしか使っていないですし、妊婦健診、分娩取り扱いともに通常どおり続けています。ただし、助産院は、予備電源はないところがほとんどです。夜間なら懐中電灯などに頼るお産となります。助産院でも最近は、入院時に、電気が必要なモニターで胎児心拍と陣痛の強さを記録することが強く推奨されているのですが、それもできなくなります。杉山さんは言います。「私たちは、停電中でも妊婦さんが安心して産んでいただけるように精一杯の努力をします。でも、まずは皆さんの節電で、お産を守ってください」
「計画分娩」は慎重に
ツイッターの書き込みなどを見ていると、薬で陣痛を起こす「計画分娩」を実施して停電中の出産を避けようとしているところもあるようです。計画分娩は、もしどうしても避けがたいようであれば、十分に子宮口が柔らかい状態になってから、医療の十分な監視の下におこなわれる必要があります。停電への対応は出産施設によってさまざまですので、健診の時などに聞いておくとよいと思います。
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