皮膚・爪・髪の病気/床ずれ・褥瘡(じょくそう)

床ずれ(褥瘡・じょくそう)の予防・治療

床ずれの予防は体圧の分散をすることです。エアーマットの使用を考慮します。栄養の改善も非常に大切です。治療として壊死組織の切除、外用薬、創傷被覆材、手術などの総合的な治療が必要となります。症例画像を挙げながら解説します。

井上 義治

執筆者:井上 義治

形成外科医 / 皮膚・爪・髪の病気ガイド

床ずれの予防

床ずれの発生を手軽に予想する方法があります。「OHスケール」(大浦・堀田)と呼ばれる以下の指標をチェックしてみましょう。
  • 自力体位変換…できる 0点/どちらでもない 1.5点/できない 3点
  • 病的骨突出(仙骨部)…正常 0点/軽度 1.5点/中等度 1.5点/高度 3点
  • 浮腫(下腿に指を押し付けた後に指の跡が残る状態)…なし 0点/あり 3点
  • 関節拘縮(関節の可動性が制限される状態)…なし 0点/あり 1点
この合計点数が高いほど、床ずれが発生する可能性が高くなります。目安としては以下の通りです。
  • 合計1~3点⇒ 軽度危険
  • 合計4~6点⇒中等度危険
  • 合計7~10点⇒高度危険
4点以上は危険と判断し、体位に応じた床ずれの好発部位を毎日観察します。皮膚の赤みが見られたら、その部位に圧がかからない体位に変更し、さらに圧の分散をはかります。皮膚の赤みの段階で発見できれば、深い床ずれに進展することが予防できる可能性が高いので気をつけて下さい。


床ずれの治療

床ずれの治療として大切なことは、原因をよく把握してこれ以上の悪化を防ぐこと、周辺の皮膚の再生を促すこと、この2点が必要となります。

エアーマットを使用して、体圧の分散を図
エアーマット

エアーマット 体圧分散に大きな効果があります

ります。体全体が沈むので活動性のある方にはやや不便なようですが、床ずれの発生を予防する最も大切な器具です。








大きな枕の使用も効果があります。
体圧の分散

枕を数多く使用し体圧の分散を図ります

円座など部分的な除圧はかえってまわりの皮膚の血行を阻害しますので、大きな面積で体圧を分散することが大切です。










スキンケア、皮膚の洗浄
床ずれの処置では石鹸を使用します

床ずれの処置では石鹸を使用します

を毎日行います。清潔を保つため、消毒ではなく、石鹸を用いて床ずれと周辺の皮膚全体を清潔にします。








水道水

石鹸を使用した後は 多量の水道水で洗い流します

石鹸、前日の軟膏の残りなどは、大量の水道水を用いて洗い流します。この後に外用薬、保湿剤を使用し、ガーゼ、創傷被覆材を使用します。







栄養 床ずれの発生する状況では、栄養不足が原因の一つである場合がよくあります。そのため低蛋白血症となり、創傷治癒が阻害されます。深い床ずれでは基礎代謝の1.5倍程度のエネルギーが必要とされます。


床ずれの治療のステップ

壊死した皮膚の切除、洗浄と外用薬使用、創傷被覆材の使用、手術などさまざまな治療が必要です。


壊死皮膚の切除 

黒く硬くなった皮膚を置いておくと、
壊死した黒色の皮膚

壊死した黒色の皮膚

皮膚の下に膿瘍が発生していることがあります。この膿瘍は切開を行い体外に出さないと、発熱、敗血症の原因となりますので、早期に施行する必要があります。また次のステップの外用薬は壊死した皮膚の上に塗っても、皮下組織には浸透しませんので、やはり早めに切除する必要があります。


床ずれに使用する外用薬と洗浄

いろいろな目的で外用薬を使用します。
壊死した皮膚を切除した後

壊死した皮膚を切除した後に軟膏を使用します



■壊死組織の除去 
デブリサン、リフラップ、エレース、ブロメライン

■細菌感染の抑制
ゲーベン、ユーパスタ 、カデックス

■肉芽形成
アクトシン 、プロスタンディン、フィブラスト


創傷被覆材

デュオアクティブundefined創傷被覆材

デュオアクティブ 創傷被覆材

一般的に創を乾かすと創の治療にはよいと以前は信じられていました。しかし1960年代から湿潤環境のほうが創傷治癒が早いことが実験で示され、デュオアクティブという製品が開発されました。創傷にこの材料を貼付して、創傷を湿潤環境に保つという治療が広まりました。




現在ハイドロサイト
ハイドロサイト

ハイドロサイト 創傷被覆材

などさまざま製品が病院で使用可能ですが、薬局でも購入可能となりました。注意点として、床ずれに使用するとずれやすい時があります。この場合ガーゼの使用を考慮します。また交換の際に必ず洗浄すること、費用がかさむので毎日交換が必要な場合には、創傷被覆材以外の安価な材料の使用を考慮することなどです。



床ずれの手術 

上記の治療法で、ほとんどの床ずれは治すことが可能です。しかしながらより短期間に治療が必要な場合などでは、手術療法も検討することが望ましいです。例えば床ずれを治癒させてリハビリが必要である方、転院先が決まり早く床ずれを治療することが望ましい方、年齢の若い方、保存的な治療で再発する床ずれなどです。
 



手術方法として、植皮、大殿筋皮弁、
仙骨部の床ずれ

仙骨部の床ずれ 手術を選択しました

大殿筋筋膜皮弁などがあります。








私の勤務する病院では、手術時間が少ないこ
大殿筋筋膜皮弁

大殿筋筋膜皮弁で皮膚を形成しました


と、出血量が少ないことから大殿筋筋膜皮弁を選択しています。手術時間は約1.5時間程度、出血量も100g以下で合併症が非常に少ないのが特徴です。
 

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