能を見るなら石川県立能楽堂
能の知識を少し仕入れたら、さっそく観賞してみましょう。見所(けんしょ・客席のこと)に入ると、正面に能舞台があり厳粛なムードが漂い、すでに日常とは切り離された「幽玄な空間」がそこにはあります。能舞台には屋根がついていますが、実は能はもともとは野外で上演されていました。能には5つの流派がありますが、金沢で上演されるのは「宝生(ほうしょう)流」で、独自の発展をとげていて、特に「加賀宝生」と呼ばれています(市の無形文化財)。もともとは「金春(こんぱる)流」だったのですが、5代将軍徳川綱吉が宝生流を好んだことから、加賀藩の4代藩主前田綱紀もそれに合わせて宝生流を取り入れました。宝生流は落ち着いた雰囲気があるということです。
能は室町時代の将軍や戦国時代の武将にも好まれ、江戸時代には幕府の公式行事でも披露される「式楽(しきがく)」となりました。こうして「武士のたしなみ」として武家社会で盛んになった能ですが、加賀藩では庶民にも奨励しました。
庶民の教養が上がるとともに、対外的には文化政策に力を入れていることが明らかにわかり、外様大名として藩を守るには好都合だったのかもしれません。
舞台ではマイクなどは使われません。その代わり、音を響かせる仕組みが整っています。例えば、天井には中間に板が貼られず、屋根まで吹き抜けです。また舞台奥の松が描かれている板は鏡板(かがみいた)と言い、反響板の役目をしています。さらに、床の下は空洞で地面に甕が埋められ、やはり舞台の音が響くようになっています。
舞台の周りにある、白い小石を敷き詰めた白州にもちゃんと意味があります。野外で上演されていましたが、音響設備だけではなく照明設備もありませんでした。そこでこの白い石で太陽の光を反射させて、舞台を明るく見せていたのです。
舞台を見ただけでも伝統芸能の重みが伝わってきますが、このように緻密に計算された仕組みを知ると、改めて日本人のすごさに気付かされます。
上演の日程が合わない方でも、建物の見学はできるので(予約をお勧めします)ぜひ足を運んでみてください。さらに希望があれば、実際に舞台の上に立つこともできます。その際は白い足袋を履くことが義務付けられています(貸してもらえます)。神聖な舞台への礼儀です。
観賞料金は主催者によっても変わりますが、1000円~2500円と意外に安く、気軽に見ることができます。定期公演(金沢能楽会主催)は毎月第一日曜日のお昼過ぎから、「観能の夕べ」(石川県主催)は7、8月の毎週土曜日の夜を中心に行われています。それ以外にも発表会や体験会などが開かれていますので、問い合わせることをお勧めします。
■石川県立能楽堂
住所:金沢市石引4-18-3
TEL:076-264-2598
※見学は無料(但し催しにより有料の公演があります)
開館時間:9:00~22:00(見学は17:00までで16:30までに入館)
休館日:月曜・祝日(文化の日を除く) 年末年始(12/29~1/3)
アクセス:金沢駅から小立野(こだつの)方面行きのバスで約20分「出羽町(でわまち)」下車徒歩約1分
土日は兼六園シャトルバスで「成巽閣(せいそんかく)前」下車
地図:Yahoo!地図情報
ところで金沢市内の中学生には「能楽鑑賞」をする日があって「能」と「狂言」を見るチャンスがあります。私も見ましたが、狂言はわかりやすく会場から笑いも起こっていましたが、能の方は謡が聞き取れずストーリーも理解できませんでした。しかし、役者の動きが人ではなく、まさに神がかり的な感じで「すごいものを見た」という記憶が強く残りました。
日本の伝統芸能の素晴らしさは、はじめは頭で理解できなくても、案外肌で感じ取ることができるのだと思います。日本人であればなおさらな気がします。