サイトメガロウイルスの感染経路
サイトメガロウイルスの感染力は高く、唾液による飛沫感染が主な感染経路。感染後も体内に居続けるウイルスですが、他の人に感染させるリスクがあるのは、感染後、年の単位に及びます。飛沫感染だけでなく、性交渉や、輸血によっても感染します。「幼児→母→胎児」という経路で感染することもあります。母体にサイトメガロウイルスの抗体がない場合、最初の子供を無事に出産したとします。最初の子供がサイトメガロウイルスに感染した場合、幼児は体液中、唾液中のウイルス量が多く、世話をする母親に感染するリスクも高くなります。子供から母親への感染時期と、妊娠時期が重なると、母体から胎児へウイルスが感染してしまう可能性があります。
また、キスによる感染リスクもあります。サイトメガロウイルスには、唾液中のウイルスによる感染症、いわゆる「キス病」の原因になる事もあるのです。この場合、発熱、リンパ節の腫れと肝炎が引き起こされます。
たまに、ペットへの感染を心配する人がいるようですが、サイトメガロウイルスは「種特異性」が非常に強いヒトヘルぺス科のウイルス。そのため、同じ部屋で過ごしていても、ヒトからペットに感染する心配はありません。
サイトメガロウイルスの対策法・治療法
ほとんどの場合は無症状で、症状があっても自然治癒します。重症化して命や視力に関わる危険がある場合は、副作用が強い薬剤を使用して治療します。治療用の抗体を使う事もあります。ワクチンを使った有効な対策が取れない理由を理解していただくために、免疫のしくみを含めて解説します。ウイルスを体から排除するためには、感染した細胞ごと、身体から除去しなくてはいけません。何らかのウイルスに感染してしまった細胞は、感染してしまったことを免疫系に示すしくみを持っています。ホテルのドアに、「掃除して下さい」という札をかけるのと同じです。もっともこの場合は掃除ではなくて、ウイルス感染している細胞自身を殺して排除することを意味します。
一方で、サイトメガロウイルスは、感染したことを示すこの機構を騙す力を持っています。ウイルスに感染した細胞を殺して排除する、「キラーリンパ球」「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」を騙し、偽物の「掃除しないで下さい」の札をかけてしまうのです。
キラーリンパ球やNK細胞を騙すこの機構を、「免疫回避」と呼びます。身体に備わっている「免疫系」は、免疫回避される前の細胞は排除できますが、免疫回避された感染細胞を排除することはできません。このため、身体にとって異物であるウイルスがずっと体内に居続ける「持続感染」が起きることになるのです。
さらに、一つのサイトメガロウイルスに感染していても、型の異なるサイトメガロウイルスには感染します。これを「重複感染」と呼びます。
サイトメガロウイルスを利用したワクチンが作られる可能性も
有効なサイトメガロウイルス用のワクチンは作られていません。上記で解説した「免疫回避」の力を持つウイルスなので、これに対するワクチンを作製することは非常に困難なのです。代わりに考えられているのが、サイトメガロウイルスに対するワクチンを作るのではなく、サイトメガロウイルス自体で他の感染症のワクチンを作るという方法。サイトメガロウイルスは重複感染させることが可能なので、目標とする微生物の遺伝子を載せて、細胞内に送るために複数回使うことが可能です。サイトメガロウイルスの遺伝子に、目標とする微生物の遺伝子を載せ、その上に免疫回避機構を無くしたウイルスを作れば、安全性の高いワクチンになるかもしれません。これはまだ理論段階ですが、新しいワクチンの手法になる可能性があります。