「子育て」に特化した賃貸住宅の可能性
厚生労働省のデータでは、総人口が減少し続ける一方で、単身者人口は徐々に増えつつあり、平成17年での1446万人が25年後には1824万人と、378万人も増加するとしています。つまり賃貸入居者ニーズはファミリー層が減り、単身層のニーズが高まっていくことになります。2LDKや3LDKといったタイプの空室が既に目立ってきていることも、そのデータを裏付ける現象のひとつです。ファミリー層向けの賃貸住宅の経営は、徐々に難しくなりつつあります。
しかし、ファミリー層にニーズのある立地で、思いきって「子育て」という切り口での付加価値を加えれば、他との明確な差別化となって、入居者をスムーズに獲得できる可能性があります。
2010年3月、東京都から「子育てに配慮した住宅のガイドブック※」が発行されました。私も、そのガイドブック作成に参画させていただきましたが、設計のポイントや設備ニーズなど、子育てに適した住宅を検討する際のお役立ち情報が取りまとめられています。
同じ2LDKや3LDKといった賃貸住宅でも、このガイドブックを参考にして「子育て」に特化することで、競合物件と差別化を図ることができますので、ぜひ参考にしてみてください。
※ 「子育てに配慮した住宅のガイドブック」
子育てに配慮した住宅のガイドブック
子育て世代のための住宅をテーマに作成
・ 安全・安心で健やかに暮らせるすまい
・ 子育てしやすい便利で機能的なすまい
・ 家族・地域とふれあえる住まい
・ 子どもの健康と成長に配慮した住まい
住戸内の床仕上げや階段の形状、転落防止の手すり設置など、安心・安全をテーマとして細部にわたっての検証がされています。
東京都都市整備局のホームページよりダウンロードできます。
さらに差別化した、学力向上!やる気・自立心を育む賃貸住宅
安全・安心への配慮からもっと踏み込んで、より積極的に「子育て」に取り組んでいる賃貸住宅の事例もあります。ファミリー世帯の入居者が転居するきっかけの多くは、子どもの誕生や成長です。一方で、世帯年収の1/3が教育費にかかるケースもあることから、子どもの成長にとってプラスに働く環境を持ちつつ、家計にも優しい賃貸住宅への転居ニーズが強まっているのです。
知育の「百ます計算」を発案したことで有名な陰山英男先生と、大手ハウスメーカーとのコラボレーションによって、子育てに特化した賃貸住宅のモデルがすでに誕生しています。
具体的には、子どもが小さいうちはなるべく家族と同じ空間にいられるようにリビングに大きめのテーブルを、家事をするお母さんの前で遊びや勉強ができるようキッチンの前にテーブルを設置しています。また、子どもが自発的に片付けしたくなるキッズクロークや、子どもが家族の気配を感じながら安心して読書できるファミリーライブラリーの設置などがなされています。学習の習慣をつけるためには、親子で学習するという環境が特に幼少時には必要とされているとのことです。また間取りに時間の概念を取り入れ、子供の成長に応じて少しずつスペースを与えていけるような可変性の高い子ども部屋の工夫もされています。
間取りや設備についても「子育て」に留意した住まいが用意できれば、確実に他の物件との差別化が図れます。全てを取り入れるのは困難だとしても、小さな工夫や配慮をすることで、ファミリー世帯に付加価値を提案することは可能です。バルコニーの手すりの高さや道路とエントランスの位置など、小さな配慮をすることだけでも、入居を決めるための大きな要因になることもあるのです。
もちろん、その際も周辺の教育環境や子育て世代の人口推移を精査する必要があります。
子育て中の多くの親御さんは「子育て中は転校を避けたい」という希望を持っているため、上手にアピールすることができれば、長期的に安定して住んでいただける可能性も生まれます。