料理人が変わり再出発を果たした「タニ・キッチン」
大袈裟に思われるかもしれないけれど、家族や特定の相手など、誰かを想って作る料理には、不思議な力が吹きこまれている。とワタシは常日頃思っている。それは、いくらすばらしい調理技術をもってしても、いくら投資しても、得ることができぬ味。だからこそ、ワタシは各国へ行ったら、必ず家庭におじゃますることにしている。そこには、食べるひとの心をそっと開いてくれる、心温まる料理と快適な時間と空間があるから。「タニ・キッチン」といえば、大森にあるタイ東北地方出身のご夫婦が腕をふるう店。カウンター席があり、ご夫婦とのやりとりが楽しいアットホームさが魅力。メリハリのある荒々しい料理を楽しませてくれる店でもある。いや、正確には、あった、というべきだろうか。というのも、タニ・キッチンは2008年5月に料理人が変わったのだ。
屋台やホテル、レストランなどで腕をふるっていたバンコク出身のベテラン女性に加わり、2010年6月、さらにバンコクの同じ職場で鍋をふっていた女性が調理場に立つようになり、同年8月、今回ご紹介する「タニ・キッチン鹿嶋山王」が誕生したのである。
料理を楽しそうに作る料理人たち
料理人がかわり、しばらく足が遠のいていたワタシだが、オーナー女性の味の好みや傾向、考え方に共感を覚えていただけに、今度の料理人たちもさぞや…と期待が高まり、新たに再出発を果たした「タニ・キッチン鹿嶋山王店」を訪れることにした。すると、どうだろう。タイ料理店というと、いまや様々な形態のお店が増え、すでに飽和状態なのかと思っていたら、あぁ、こんな雰囲気(ジャンル?)を提供するお店もあったのね…!控えめながら、異彩を放つ店へと変貌を遂げていたのである。そこにはホームステイしたときのような心温まる料理と快適な時間と空間があり、料理人たちも家庭で“ごはん”を作っているように楽しそうにしていたのがなによりも印象的だった。