タバコ、コーヒー……多くの人に無関係ではない薬物依存
薬物依存症は精神的に問題を抱えている人だけがなるもので、自分には無関係なものだと思ってはいけません。日本にも、法律で合法的とされている薬物依存があります。それはニコチンです。ニコチンを合法にしていることで、税収のために国民の健康を害してもよいのかという議論も起きているようですが、喫煙者は最も身近な薬物依存症の代表と言えるでしょう。
覚せい剤のように妄想や幻聴に苦しむことはありませんが、ニコチンはかなり毒性が強い物質。経口で大量摂取するのは危険です。ヒトの脳にはなぜかニコチンの受容体があり、吸引したニコチンが脳に働きかける仕組みがあります。禁煙が難しいのは、このニコチンの受容体があるからです。他の薬物依存症のケースと同じく、喫煙者の意志が弱いからではありません。
また、コーヒー、紅茶、お茶に含まれるカフェインにも依存性があるとされています。禁断症状というと大袈裟ですが、コーヒーを常飲している人の場合、コーヒーを飲んでいない時に頭痛が起きることもあります。これも弱い薬物依存の一つと言えるのです。合法・非合法の差はもちろん大きなものですが、自分は絶対に薬物依存にならないという過信は絶対に禁物です。
人が簡単に薬物依存に陥ってしまう理由
薬物依存が起こるメカニズムは、実は完全には解明されてはいません。薬物依存症には、薬物の作用に対する「記憶」が関係していて、私たちの脳が薬物依存症を起こしやすいようにできているのは確かです。脳は、脳内でできた化学物質や体内で放出された化学物質により、鎮静(麻痺)したり、刺激を受けて興奮したりを繰り返しています。ある化学物質に対する反応は脳内の部位により異なるため少し単純化し過ぎですが、薬物依存を起こす薬物を最も簡単に分けると麻痺系(抑制系)と興奮系(刺激系)に大別できます。麻痺系の代表はアルコール。興奮系の代表が覚せい剤とも言えます。
アルコールの場合、興奮系の覚せい剤やカフェインとは真逆の麻痺系の薬理作用があります。血中濃度により一時的に興奮作用があるようにも見えますが、最終的には麻痺させる作用(麻酔作用)があります。アルコール依存症は日本だけでなく、多くの国でも社会的な問題となっています。アルコール依存症は家庭内暴力や育児放棄の原因ともなります。
意志や精神といった漠然としたものではなく、どんな薬物でも肉体の一部である「脳」に作用することを忘れてはいけません。気分的なものではなく、ダイレクトに依存させる力を持っているのです。
最後のページでは、覚せい剤が人格そのものを破壊するリスクについて解説します。