雑貨/ハンドクラフト・工芸

陶芸家の工房へ・伊藤 環の器

神奈川・三浦半島にて作陶されている陶芸家、伊藤 環さんの工房を訪ねました。2007年には東京で初の個展を開催します。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド


二子玉川のうつわ屋さん「KOHORO」に遊びに行ったときのこと。 ちょうど新しく入荷したうつわがあるというので、見せていただきました。 店主・恵藤さんは千葉で行われた展示会で一目惚れして、そのまま作家さんと一緒に 工房まで行ってしまったそうです。 ドキドキしながらそっと包みを開くと、心がしんと静まるような、銀彩の うつわが現れました。今まで見たことがない色と質感。 言葉にしようにも薄っぺら過ぎて、ただ「素敵ですねぇ」としか言いようがありません。 しかし、ざわざわとした気持ちに、いてもたってもいられず、 搬入にいらしていた作家さんに急遽お願いして、その場で工房へ訪問する約束を、 ちゃっかり取り付けてしまいました。

オブジェ作りからうつわ、ブランクーシの影響も大きく

工房の一角はギャラリーのようなスペース
陶芸家・伊藤環さんの工房は三浦半島の三崎にあります。 駅を降りるとふわっと漂う海の匂い。 のんびりとした畑の間の道を車でしばらく走り続けると、やがて海岸へ。 ぱあっと視界が開けて、穏やかな海が広がっています。 このときはちょうど大根の収穫シーズン(三浦大根です!)。 海岸には果てしないほどの大根が、潮風に当たって気持ち良さそうに干されていました。 そして三崎といえば、マグロです。 みえみえの下心でお昼に到着し、地元のおいしい料理屋さんで、しっかり堪能 させていただきました。うーん、三浦って、いいところです。

伊藤さん自身も、三浦に住んでまだ1年足らず。元々は九州・秋月の出身です。お父様も陶芸家で、秋月に窯を所有しています。 かといって、子供の頃から土いじりをしていたわけではないよう。 学生時代は絵が得意だったので、大学はデザイン方面へ、と考えていました。 しかし受験したデザイン科はなぜか落ちてしまい、受かっていたのが陶芸科だったそうです。 「大学は大阪だったのですが、最初は土地にも授業にも馴染めずにいました。 陶芸って面白いな、と思うようになったのは大学2年のとき。 アルバイトで、モデルルームに飾るオブジェの制作を依頼されたんです。 不動産屋のシンボルマークがリンゴで、それをモチーフに一夏かけて夢中で作っていました。 授業で使わない釉薬を使ったり、自分の考えだけであれこれ試すのが、 すごく面白かったんですね。この経験のおかげで、授業への姿勢もがらっと変わりました。 決められた制約の中でも、楽しんで作れるようになったんです」。

作品 作品
ギャラリーに並ぶ器たち。右は錆銀彩。


大学卒業後は、陶芸家・山田光氏に師事。当時の時代の流行もあってか、 オブジェ作りに熱中していた伊藤さんが、もう一度基礎からうつわ作りを 学んだのは、この時期でした。湯呑みから始まり、 一番難しいといわれる急須まで。自由な雰囲気の中で一日中ひたすらろくろに向かい、 黙々と作れる環境だったとか。ここでろくろの技術を十分に培うことができたようです。 その後は、信楽 の「陶芸の森」へと移りました。 若手の作家がたくさん集まる環境の中、自身の作風にも変化が表れます。 「最初は人体に興味があって、顔や足ばかり作っていたこともありました。 筋肉の付き具合とか、かかとのでっぱりとか、人間のフォルムにすごく関心があったんです。 でも曲線ばかり作っていると、今度は無性にキリッと角ばったものが作りたくなって、 急に大きな箱作りに熱中したり。当時はブランクーシに影響を受けてたんですが、 特に台座がいいんですよ。あんな台座が作りたいなあ、と思って」。 曲線、直線を散々研究しつくしたこの頃の経験が、伊藤さんの技術のベースとなり、 現在の作品にも反映されているようです。 そういえば伊藤さんのうつわには、彫刻とか建築を匂わせる空気感があります。

作品 作品
作品 作品



陶芸家 伊藤 環プロフィール
1971年生まれ。大阪芸術大学卒業後、京都にて山田光氏(走泥社創始)に師事。信楽 "陶芸の森" にて各国若手作家と競作の後、郷里秋月へ戻り、父 橘日東士氏と共に作陶。 2006年神奈川県三浦市三崎に開窯。
http://www.itokan.com/




次ページでは、いよいよ工房の中へ、そして展示会のご案内です。
工房の一角
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます