京都へ行ったら必ず覗いてしまう店があります。
繁華街からは少し離れた、静かな通りにあるその店は、
カラカラと引き戸を開けて中に入ると、
真ん中に少し高くなって畳を敷かれた場所があり、
そこで数人の職人さんが、黙々と作業をしていました。
慣れた手つきで次々に針金を編んでいく姿は、ほれぼれするほど見事で、
しばし立ち止まって、じーっと手元を見つめてしまいます。匠の技です。
店内には、きれいに編みこまれた焼き網やカゴ、茶漉しなどが
並んでおり、一寸の狂いもなく等間隔で精密な網目には、ただほおっと見とれてしまうのでした。
台所道具であり、アート作品でもある
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網目の整列が美しい、手仕事の道具です。
焼き網は、普段それほど使ったことがありませんでした。
網で焼く、というのは、ちょっとスペシャルな感じがしていました。
外でみんなでバーベキューをするときか、
小料理屋的こじゃれた雰囲気を演出するときか。
日々使うものではなくて、非日常を楽しむ、ハレの道具だったのです。
元々日本では、かなり日常的な普段の道具だったと思うのですが、
現代人にはある意味贅沢品。
でも、網で焼くほうがやっぱりおいしい。
わかってはいましたが、自分が使うとなると別。
焼き網は、自分の中では封印された調理道具でした。
先ほどの京都で、気づいたら網を手にしていました。
職人さんたちの手さばきを見ていたら、間違いない、という確信がむらむらと湧きあがり、
買わずにはいられなくなっていました。
だから、あまり後先考えず買ってしまいました。
自分の普段の生活を顧みたら、たぶんそんなに使うこともなさそうなのですが、
これはもう衝動的に込み上げてしまった思い。実用というより芸術品、そして職人魂を持ち帰るような気持ちでした。
この網、小さな足が3箇所について、ぴょこんと立つようになっています。
円の大きさや高さもいくつか種類があったのですが、
私は5cmほどの高さがある、直径16cm弱のものを選びました。
実は焼き網というより、蒸し物をするときに鍋に入れる台として使うことが主な目的の網らしいです。
なによりもまず丹念な網目に惚れてしまったので、使い道について深く考察する余裕がありませんでした。
次ページでは、この網の便利な使い方をご紹介します。