
アーチが見えたらもうすぐ。左の小道を曲がった
ちょっと奥に、ひっそりと白い壁のお店があります。
行くたびに、住みたいなあ、と思ってしまう街のひとつが西荻窪。 大きなビルやデパートはありませんが、商店街に活気があって、 おいしい食べ物屋さんがちょこまかとあって、 センスのいいギャラリーや古道具屋さんがあって。 普段の毎日を楽しくしてくれそうな街なのです。 そんな街の小さな路地裏に、またまた魅力的なお店ができました。
長年の友人同士が始めた、食と道具のお店
戸棚の中がとっても気になります。お店の名前は「364(さんろくよん)」。なんだか呪 文のような名前です。 一年は365日だから・・・、 あれ?ひとつ足りません。 理由を聞いてみたら、一年を通して使える日々の道具や食材を扱っているのですが、肩の力を抜く意味を込めてひとつ引いた 数字にしたのですって。 364の提案するものたちは、 毎日を安心しておいしくするための、ささやかで飽きのこないものたちばかり。 ずっと長く良いと思えるよう、ひとつずつ丁寧に選んでいます。
店主は二人の女性で、駒井京子さんと二所宮佐代子さんです。 二人はなんと10年来の友人同士。 かつては代官山のとあるギャラリーに勤めていました。 その頃から、和紙を使った作品作りをしたり、 展示のイベントを開催するなど、二人でフリーの活動をしていたそうです。
「以前より、いろんな人が集まって、わいわいと楽しめる空間って いいな、と思っていました。でも自分で何かやるということまでは、 まだ漠然としていたんです。 そんなとき、去年なんですがたまたま二人で、七里ガ浜の収穫祭に出かけました。 青空の下で、家族や友人たちが集まって、みんなでわいわいご飯を食べて。 単純でささやかなことだけど、本当においしくて心地良かったんですよね。 そんな風景に、 すごくじーんときてしまって、自分も何かやりたい、と強く心が動きました。 人が集まっておいしい物があって、みんなが楽しい気持ちになれるような場所、 とあれこれ思いを巡らせていたら、どんどんアイディアが膨らんでしまって、 あっという間にお店ができてしまった感じです」。

すっきりとシンプルで無駄のない店内。外にはほおずきがちょんちょん置いてありました。
ギャラリーに勤めていた頃は、器をメインに扱っていましたが、 ここでは器の中に入れたい、食品も並んでいます。 お米があって、お茶碗があって、鰹節があって、お鍋があって、 という、日本の普通の家庭の毎日に必要なものを中心に集めています。
靴を脱いでのんびり佇む二階の小部屋
手仕事の道具や古いものが並んでいます。お店を入ってすぐの部屋は、コンクリートの床で土間のような雰囲気。 古い戸棚に食材や料理道具などが行儀よく並ぶ、こぢんまりとした空間です。 そしてちらっと奥の方をのぞくと、なにやら階段が見えました。 二階もお店になっているとのこと。 少し赤みを帯びた壁と、緑の段のコントラストがかわいい階段を とんとん上がると、こちらはパッと明るい光が差し込む白い部屋で、 入り口には緑の枝が揺れていました。 部屋には靴を脱いで上がるシステム。 ペタリと床に座り込むと、 窓からは気持ち良い風が流れ、隣りの家の緑豊かなお庭がちょうど見渡せる 、素敵な場所でした。秘密の隠れ家のようで、ついぼうっとしてしまい、なかなか降りてこれません。

ちゃぶ台があったり、床の間があったり。和める空間です。
「あんまり暮らしに興味のなさそうな、若い男性がこの部屋のちゃぶ台を見て、 ここでご飯と味噌汁が食べたいなあ、と言っていたのがちょっと嬉しかったです」。
もともとは居酒屋さんだったという建物。階段や壁の色はそのまま残して、 大工さんにはちょっぴり悪いけど、 少し手を抜いてもらうことによって、人の気配を感じる、味のある風情に仕上げています。 電気も天井に取り付けただけの裸電球だったり、 工事のときに使用していたものをそのまま使ったり。 華美な装飾のないインテリアですが、そんな潔さの中に どこか程よいぬくもりと、気楽で落ち着いた雰囲気があります。
次ページでは、お店で扱っている道具や食材をご紹介。
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