1981年に劇団「第三舞台」を結成して、「朝日のような夕日をつれて」(87)で紀伊国屋演劇賞、「天使は瞳を閉じて」(92年)でゴールデンアロー賞、「スナフキンの手紙」(94年)で岸田國士戯曲賞、戯曲集「グローブ・ジャングル」で2010年に読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。KOKAMI@network、「虚構の劇団」の作・演出を手がけ、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティ、司会など幅広く活躍されている鴻上監督にインタビューすることができました。
恋する動機は寂しさ
恋をするためには寂しさを感じるための一人の時間が必要(C)2010「恋愛戯曲」製作委員会 |
鴻上監督:恋愛を始める動機は寂しさだから、まずは寂しくなってください。僕らは物語の入口としてドラマチックな設定を作るけれど、人間が恋をするのは寂しさや見栄、性欲だったり、焦る気持ちから誰かを求めるものなんですね。だから、実家にいるならまず一人暮らしをして、ペットから離れ、寂しい状況に自分を追い込まないと恋なんか始まらないよ、と言いたいですね。
■そうですね。最近はメールのやりとりがあって、恋人にはなっていないけれど一緒にごはんを食べに行ったりして、そこから恋愛に進むのが難しいっていうことになっているんですよね。
鴻上監督:それは、なぜ難しいっていうかっていうと、その人を追求しなくても他の気が紛れることがあるじゃない。だから、自分を寂しい状況に追い込まないとダメなんだよ。
■寂しい状況に自分を追い込む、ですか。
鴻上監督:つまり、退屈だと思いつつ顔を出すとか、飲み会でしゃべりたくないのに何となくしゃべっているとか、気を紛らわせてばかりいると「何が本当にしたいのか」「自分は誰と話したいのか」というのが分からなくなっちゃうんだよね。
自分にとって必要でないものは削ぎ落としていかないと。本当は何をしたいのか、何を求めているのか、誰と話したいのか、それが分からない状況で苦しんでいるなら、目の前にあるものを除けるしかないでしょう。食べ物でいえば、飢餓を経験していないので自分の食欲と関係なく時間で食べているだけだと「自分が本当は何を食べたいのか」が分からなくなる。それと同じなんですよね。
1週間くらい一人旅に出てみるのもいいと思います。「どんな人を求めているのか」「何が嫌いなのか」をとことん考えると見えてくるんですよ。多すぎる情報を遮断して自分の心をごまかすことなく、自分がどんな恋愛を求めているのかを知る時間を作るのがいいと思います。
言葉はいつも想いに足りない
「親しい相手にこそ言葉で気持ちを伝えていかないと」と鴻上監督(C)2010「恋愛戯曲」製作委員会 |
鴻上監督:だいぶ前……20代の頃ですね。自分の気持ちをどんなに言っても伝わらないことがあって、ビジネスシーンでも言えば言うほど誤解されるということがあると感じる瞬間があって。だから言葉を止めるのではなく、だからこそ言葉をいっぱい発して、言葉にならない思いを明確にしていこうということなんです。
カップルがいて「どうして分かってくれないの?」なんて言っているのを聞くと「人間って、基本的に分かり合えないものなんだよ」と言いたくなるんですよ。言わないけど(笑)。
分かり合えないことが前提だと思っておけば、分かり合えた瞬間が嬉しいし、幸せでしょう。どんなに親しい間柄でも言葉にしなければ分からないし、親しいからこそ言葉で伝えないと分からないんですよ。たとえば、結婚したら他人と暮らすわけだから、そんなの言葉を使わなければ分かるわけがないし、言葉を使ってやっとお互いに相容れないことが明確になるから、それはラッキーなことなんですよ。言葉を尽くすことで無駄に傷つけ合わなくてすむんです。ギリギリまで言葉にしていくことが大事なんですよ。
鴻上監督へのインタビュー。続きは