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住宅が「高い」本当の理由とは?

多くの方々にとって、住宅は高いものです。ただ、どんな理由で高くなっているのか、皆さんは考えてみたことがあるでしょうか。この記事では、海外と日本の住宅事情を比較しながら、その理由を明らかにします。理由を理解することで、賢いハウスメーカー選び、ひいてはよりよい住まいづくり、住宅の取得を目指す上で役立つアプローチにもなるはずです。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

ハウスメーカー選びガイド

日本の住宅が高い5つの要因

多くの方々にとって、住宅取得を検討する際、「家って高いなぁ」と思うのではないでしょうか。また、「他の国と比べても高いんじゃない!?」なんていう疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。結論を先に申し上げると、我が国において住宅は高くて当然であり、海外に比べてもそうだといえます。では、その理由とは一体何なのでしょうか。このことを理解しておくことも、賢い住まいづくり、住宅取得に役立つと考えられます。

我が国での住宅取得が高くなる要因は、大きく以下の5つに集約されると考えられます。
・土地価格が高い上に狭い
・住宅の建て方が多種多様
・住宅に求められる水準が大変高い
・住宅取得のスタイルに注文建築が多い
・中古(ストック・既存)住宅の流通量が少ない


土地については、特に大都市の中心部では高いのは致し方ないこと。欧米諸国はもちろんのこと、近年は発展途上国の主要都市においても上昇していますし、貨幣価値の違いもありますが、「住宅は高い」という感覚はどの国でもあるのだと思われます。
狭小

東京都内の狭小住宅が密集しているエリアの様子。狭小住宅だと質の高い暮らしをしづらい。そして、それ故に満足度が低くなり、結果として「住宅は高い」と余計に感じてしまう(写真はイメージ。クリックすると拡大します)


ただ、日本の場合、特に主要都市の中心部は事情がだいぶん異なります。土地そのものが高い上に、限られた居住空間を有効活用し、快適性を確保するためには様々な工夫、機能性が求められます。例えば、収納量の確保はその代表例といえるのではないでしょうか。

「狭小住宅」などという言葉があるのも、我が国ならではの事情によるもの。いずれにせよ、このような住宅事情が、私たちに「日本の家って質の割にはお得じゃないよね」と感じさせてしまうのだと思われます。

多種多様なスタイルがある日本の住宅建築手法

次に、日本の住宅の建て方について。主なものとして木造、鉄骨造、コンクリート造の3種類があります。木造の中には木造軸組工法(在来工法)やツーバイフォー工法、木質プレハブ工法、ログハウスの建物があり、鉄骨造には鉄骨プレハブ工法(軽量鉄骨、重量鉄骨)、スチールハウスがあります。
ユニット

工場で主要な住宅部材を生産するプレハブ工法が成功しているのは日本だけ。写真は、より工場生産比率が高い鉄骨ユニット住宅の工場(セキスイハイム)の様子(クリックすると拡大します)


私たち日本人は、このような多種多様な工法があることについてなんら驚きません。しかし、海外では戸建て住宅についてはほぼ1種類の工法で住宅が建てられていることを考えると、特異な状況であると考えられます。

米国やカナダでは戸建て住宅は、ほぼツーバイフォー工法で、ビルやホテルなどより規模が大きな建物も建てられるケースもあります。私はオーストラリアの住宅事情を取材しましたが、戸建て住宅はやはりツーバイフォー工法が一般的でした。

1種類の工法で建てられるということは、建物に使われる部資材が共通化しやすいということ。一般的にこのことは住宅を建てる上での生産性を高めることにつながります。残念ながら、日本では多くの工法があることにより、住宅の生産性ではそれらの国に対して不利な状況になっているともいえそうです。

日本の住まいに高い水準が求められる理由とは!?

ただ、我が国に多様な住宅の建て方があるのには理由がないわけではないのです。それは、住宅に求められる水準が大変高いからです。前述の狭小さを克服することもそうですが、自然災害が多い風土も関係しています。

中でも、地震対策は何よりも重視されていますから、より耐震強度の高い住まいづくりを実現するため多種多様な工法が採用されるようになったのです。近年は耐震性の強化だけでなく、免震・制震などという、地震被害を軽減するシステムが普及していますが、それらも住宅が高くなる理由の一つといえそうです。
制震

一般的な木造住宅にも近年、地震対策として制震の仕組みが導入されるようになってきた。日本の住まいづくりでは地震対策が重要視されている証だ(クリックすると拡大します)


製品やサービスに大変高い品質と性能を求める、私たち日本人の国民性も理由の一つかもしれません。例えば、アメリカやオーストラリアの施工の様子をみると、精度は決して高くはありません。現場も整理整頓が行き届いていません。

そんなことは、日本では好意的には見られませんし、場合によっては「近所迷惑!」と問題になることがあります。ですので、時には欠陥住宅の問題も浮上することはありますが、私は日本の住まいづくりというのは世界的にもトップレベルにあると思っています。

高い品質、性能を実現しようとするなら、住まいづくりに関わる関係者の技量は高くなくてはならず、そうであればあるほど支払われる報酬は高くなります。ですので、我が国の住宅が高いのは、人件費の高さという部分も大きく関わっているわけです。

世界的には注文スタイルの住宅取得はレア

さて、国土交通省がまとめた建築着工統計調査によると、2016年(平成28年)の総着工戸数は 96万7237戸で、このうち持家が29万2287戸、貸家が41万8543戸、分譲住宅が25万532戸となっています。分譲住宅には戸建てとマンションが含まれます。
展示場

東京都内にある住宅展示場の様子。住宅展示場は注文住宅を検討する人を主な対象とする場だが、それがあるのも日本くらいだ(クリックすると拡大します)


持家=戸建て注文住宅であり、総着工数のうち約3割が注文住宅であるわけです。この住宅取得のスタイルでが多いこともわが国ならではの特色であり、このことも住宅が高い要因の一つと指摘できます。

分譲住宅だと、ある程度まとまって建てられますからコストダウンができる部分が生まれるのですが、注文住宅の場合は施主ごとの好みや要望を反映して個別に建てられるため、コストダウンすることが大変難しく、そのためより高くなる傾向にあるのです。

アメリカの場合は、新築戸建て住宅のほとんどが分譲住宅です。前述したオーストラリアのほか、韓国、タイの住宅事情を取材する機会がありましたが、いずれも同様です。つまり、海外において庶民が新築で住宅を手にするのは、分譲住宅がほとんどということです。
アメリカ

アメリカ西海岸にある注文建築による住宅。プール付きなのが大変目につく。これくらいゴージャスな住宅は現地でも希で、アメリカンドリームを象徴している(クリックすると拡大します)


注文建築で家を取得するのは、アメリカならハリウッドスターや有名スポーツ選手、大企業重役クラスなど富裕者層が中心。いわば特権なのです。詳しくは知りませんが、その他の国でもおそらく同じだと思われます。

その注文スタイルが日本で普及しているのは、何かとこだわりが強い国民性に加え、二世帯居住などといった他の国では余り見られない居住スタイルに対応しているからだと考えられます(発展途上国など、古くからの家族制度を維持している国や地位には多世帯居住のスタイルはあるようですが)。

欧米ではストック住宅の取得が中心

最後に、ストック(中古・既存)住宅の流通の少なさが住宅が高いことにつながっていることについてですが、アメリカの住宅事情と比較するのが分かりやすいと思われます。アメリカで2015年に建てられた住宅は約111万戸。日本は同じ年で約92万戸です。
オーストラリア

オーストラリアのある住宅施工現場の様子。こんな状態だと日本なら大騒ぎだが、現地では特に問題にならないという。お国柄を良く表した光景だ(クリックすると拡大します)


人口はアメリカが3億人、日本が1億2000万人。日本で新築住宅がいかに沢山つくられているのかイメージしていただけますし、逆にアメリカではそれほど住宅が建てられていないことも分かると思います。

このような状況の中で、多くのアメリカ人の住まいの受け皿となっているのが、ストック住宅というわけなのです。新たに建てなくてすむわけので、ストック住宅の方が購入しやすいことは何となくご理解頂けると思います。

アメリカの若い夫婦は、賃貸住宅→ストック住宅の購入→分譲住宅の購入、という感じで住み替えるのが一般的。ストック住宅もモノによりますし、高額なものもありますが、日本人の若い人たちが住宅取得より金額的なプレッシャーを感じないですんでいるようです

その代わり、彼らは購入した住宅に自ら手を加え、大切に扱うことで資産価値を高め、購入時よりも高い金額、あるいは資産価値をできるだけ下げないで売れるよう努力します。それは、我が国でもずいぶんDIY(Do It Yourself)の認知度が高まっていますが、アメリカではそれが生活、文化の中に根付いていることが要因の一つになっています。

この状況は欧米諸国でも似たような感じ。私の友人(女性)は結婚してドイツに住んでいますが、居住しているのはストック住宅です。結婚祝いのプレゼントの中に日曜大工の道具があったそう。「愛の巣は自分たちで手入れするものだよ」というわけです。
俯瞰

日本では、住宅の数が既に世帯数を超えている状況だ。そのため、ストック住宅をうまく活用できる仕組みや風土づくり、住まいに関する意識を変革することで、特に若い人たちが住宅を取得しやすい環境とすることが求められている(クリックすると拡大します)


日本でも近年、政府や不動産事業者、住宅事業者らがストック住宅を売買しやすくできるよう、そして流通量を増やすための動きが活発化しています。例えば、住宅履歴の整備など、ストック住宅の質を私たちに分かりやすく明示することなどです。それらは、若い世代がより住宅を手にしやすい環境とすることも大きな目的の一つとなっています。

そうした仕組みづくりも必要ですが、その前提となる、住まいの手入れを積極的に行う、住宅をより大切にする習慣が暮らしの中により広がることが、日本において皆さんが過剰に「住宅って高いよね」と感じずにすむ状況を作り出すのではないかと、考えています。

つまり、私たち消費者にも、「ストック住宅より新築住宅の方がいい」と安易に考えるのではなく、ストック住宅にも選択肢を広げてみる住まいに対する意識改革が求められているように思われます。


【関連リンク】
大手ハウスメーカーの特徴
工務店・建築設計事務所の特徴
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