成人T細胞白血病ウイルスは母乳により、母から子へ感染するウイルスです。 妊娠中の血液検査で、お母さんがウイルスを持っているかどうかを調べます。   このウイルス検査が陽性と判明して、不安な気持ちのお母さんに、ウイルスの  特徴や授乳について解説し、現状を紹介します。

成人T細胞白血病の基本知識

HTLV-1というウイルスの感染が原因の白血病です。このウイルスが、血液中の細胞に寄生している人を、HTLV-1キャリアと言います。このキャリアの方の約5%が中高年になってから、成人T細胞白血病を発症します。

キャリアのお母さんの母乳中には、血液中と同程度のウイルス寄生細胞があり、
母乳哺育をすると約20%(5人に1人)の子供が感染してHTLV-1キャリア(ウイルス保持者)になります。人工乳哺育にすると、子供が感染する危険性は約3%に減ります。

日常生活で感染することはない病気ですが、日本にはキャリアの人が100万人以上おり、献血や妊娠中の検査で見つかります。人間ドックや健康診断、病院での一般採血検査で、このウイルスを調べることはまずありません。

母乳以外の感染経路、白血病以外の病気についての話は省略します。
 

これまでの経過

約30年前に、このウイルスが発見されてから、これまでどのように考えられてきたかを振り返ります。

  • ほぼ同時期に発見されたHIV(AIDS:エイズ)ウイルスに比べ、キャリアからの発症率、致死率が非常に低く、世界的には、日本などの一部の国に多い、 風土病の1つと考えられて、比較的、注目度が低かった。
  • 母乳による感染率が約20%なら、少子化が進めば、母乳を制限しなくてもキャリアは減る。また、当時、行われていた乳母・もらい乳の習慣が衰退し、人の移動が盛んになれば、何世代か後には消滅すると、期待された。 
  • 母乳育児の気運が高まった時期にちょうど重なり、海外ではHIVと同様、母乳禁止であったが、日本では母乳推進の立場から、短期授乳法、加熱処理・冷凍処理母乳など、人工乳哺育以外の代替法が検討された。
  • 人工乳哺育や代替法を選択する際、十分に情報を提供した上で、キャリアの母親が選択するとしてきたが、本当の当事者、感染するかもしれない子供 (新生児)の同意を得る手段はなく、子供側の視点での配慮は足りなかった。

HTLV-1陽性と判定されたお母さんに

日本の人口が約1億人、100万人以上がキャリアですから、約100人に1人がキャリアです。例えば、妊婦さんが1万人いると、100人がキャリアで、その全員が母乳哺育をしたとして、キャリアになる子供は20%の20人。キャリアの人が一生で発症する率が5%ですから、この中の1人が、いつか成人T細胞性白血病を発症する、おおよその割合です。

このように少ない頻度で起こる病気や自然現象は、統計データだけで、指針を示すことは難しいのです。ベストアンサーを示すのは難しいですが、ガイドの経験例を紹介し、授乳についての参考にしていただければと思います。
(以下は、実話に基づいていますが、必要に応じて脚色しています。)

Aさん)  
「献血の時に、初めてキャリアと判り、あとで、母親もキャリアだと知りました。
以来、健康診断の採血、恋愛、結婚、いつも気になっていました。私は、仕方ありません、すでにキャリアなんだから、発症しない事を祈るだけです。でも、私が人工乳だったら、もしかしたら、キャリアにならなかったかもしれないと思うと、自分の子供には、絶対、感染させたくない。人工乳でも、子供は分かってくれると思う、母乳はしません。」
この時、私たちにできたのは、これ以上、お母さんを悩ませるようなことはしない、産後に、周囲の人に違和感なく、人工栄養で育児できるようにする、などでした。

Bさん)
10年以上前、南米出身の日系3世、米国の法律事務所に勤務経験のある方で、妊娠中の血液検査で初めてHTLV-1キャリアと判明。授乳について説明をして、 しばらくしてから、米国の専門書と、出身国のドクターからのメールを持ってきて、私の説明内容では、もし子供がキャリアになった場合には、訴えることができる。私は勉強不足だと責められ(好意的に)、認識の甘さを知りました。

Cさん)
 病気について十分に理解した上で、母乳免疫を考慮し、冷凍処理母乳を与えたいと考え、冷凍母乳パックを用意しました。1ヶ月健診の時には、搾乳の大変さから、冷凍母乳を断念していましたが、初乳をあげられたことに満足していました。 
昔は、冷凍母乳を続ける人もいましたが、今は、少なくなりました。

Dさん)
「本当は人工乳が良いと思っているが、母乳の方が簡単だし、ミルクは費用がかかるから、母乳哺育を選択したい。」
昔から、経済的理由と母乳の簡便さから母乳哺育を選ばれる方は多いです。  もし、妊婦全員にウイルス検査を行うのなら、何か配慮が必要かもしれません。

短期授乳法)
私が勤務する大阪では、ご自分から「短期授乳をします」とおっしゃる方はあまりいませんが、一般に、母乳による感染症は、乳腺炎になると、子供への感染率が高くなるので、短期授乳法の場合には、特に乳腺炎の予防が大事になります。


すべての人は必ず、何かのウイルスを持続的に持っています。有名なものが口唇ヘルペスウイルス(いわゆる熱の花)、感染症以外にも誰もが、さまざまな病気の素質を持っています。HTLV-1はその1つです。母乳により感染するという特徴が少し、問題を複雑にしていますが、今後、キャリアからの発症予防法やワクチンなどの根本的な治療ができるようになることを期待したいですね。
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