依存症/薬物依存症

薬物依存症の特徴・原因・症状

【医師が解説】薬物依存症の原因物質はかなり数があります。まずタバコに含まれるニコチンやアルコール、そして麻薬や覚せい剤、さらには乱用時の睡眠薬なども該当します。今回は、こうした原因物質への依存症の特徴、原因、そして症状を詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

薬物依存症とは……自力ではそれを止められない状態

薬物依存症の特徴・原因・症状

薬物依存症は当人の意思の力では、とても乗り切れるものではありません。その理由には、その原因物質の薬理作用で、体の機能の一部に問題が出てくる…といった事も関わります

私たちの社会で薬物依存症は深刻な問題の一つです。これによく対処していくためには、その問題点をできるだけ正しく理解しておきたいです。それで今回は薬物依存症に関して知っておきたいポイントとして、特にその基本的な特徴や一般的な原因、そして現れてくる問題や症状を重点的に解説します。
 

薬物依存症の特徴

薬物依存症は基本的には、その原因物質を前にした時、自分をコントロールできない状態です。いったんそのような状態に陥ると、そこから自力で脱け出すことは一般に大変困難です。言葉を変えれば、そこから抜け出すためには通常、専門家の力が必要です。

もっとも薬物依存症はその原因物質を試した人が皆なる訳ではありません。例えばアルコール依存症では、もちろんアルコールがその原因物質ですが、飲酒をされる方の大半はアルコール依存症とは無縁です。しかし一部の方は、いったん飲み始めると記憶がなくなるまで飲んでしまうような飲み方になっているかもしれません。そうした際、「だらしがない」といった印象をまわりに与えがちですが、アルコールにコントロールが効かない理由は、本人の意思や気持ちのあり方…というよりむしろ、過度の飲酒で変容した脳機能が引き起こしている問題だと理解しておきたいです。それゆれに、専門家の力なしには解決が困難なのです。
 

薬物依存症の原因……気持ちや性格の問題では片付きません!

薬物依存症の本質的な問題は、その原因物質を、ある一定期間、あるレベルを超えた量で継続使用した結果、脳機能の一部が変容した事です。

具体的には、脳内で情報伝達を担う神経伝達物質の一つ、ドーパミンなどが関わります。このドーパミンは、何かで気持ちがうれしくなったり、快感を覚えた際に活性化する脳領域での、神経伝達に関わります。見方を変えて言えば、何かで気持ちがうれしくなったり、快感を覚えた際は、脳内で分泌されたドーパミンなどが情報伝達することで、そうした気持ちにひたれるのです。

それで、薬物依存症では、そうしたドーパミンの情報伝達などに、何か問題が出ることも、その原因物質へ病的な欲求が生じる理由です。実はこうした問題は、薬物依存症で、その原因物質を通じて…といった形の他にも、ギャンブルやショッピング、さらにはセックスなどの行為でも生じる可能性があり、それぞれ「ギャンブル依存症」、「買い物依存症」、さらには「セックス依存症」などが生じる要因になります。

以上のような、脳内に起きている問題こそが、薬物依存症の本質といえますが、そうした問題が発生するまで、その原因物質をあるレベルを超えて、継続使用する場合、以下のような問題が、複数関わりやすいです。
 
  • 気持ちが慢性的に落ち込んでいる
  • 不安定な人間関係などから、日常のストレスがかなり辛い
  • 先も見えないような、何か深刻な事態に直面している
  • 脳内の機能を定める遺伝情報(DNA)の一部に、薬物への欲求を高めるような要素がある
  • 当人の交友関係なども含めて、生活環境の中に、そうした問題が発生するかもしれない素地がある

こうした事は、分かりやすそうな例を出すと、頭によく入るかと思います。それで一例として、まだ10代の少年が、仲間との付き合いから飲酒をスタートしたとします。始めはただの付き合いのつもりでも、本人には実は遺伝情報からの、といえるような体質的要因があった(特に両親や兄弟姉妹の誰かにアルコール依存症がある場合、その可能性には注意したいです)。そして、当人の毎日は、先が見えないような厳しい毎日です。それで当人の、まだ10代という年齢は、中枢神経系が、まだ完全には成熟していない事を意味します。アルコールの脳内への悪影響が通常よりかなり深刻化するかもしれません。以上のようなことが重なることで、当人は次第に飲酒量を増やし、その数年後にはアルコール依存症のレベルになっている可能性もあります。
 

薬物依存症には精神症状だけでなく身体症状も

薬物依存症で出ている症状や起きている問題は、心の問題か、それとも体の問題なのか、と以下のように二分してみると、結構分かりやすいと思います。

■精神的な問題や症状
一言でその問題点を言えば、その原因物質への欲求が頭から離れないことです。そしてもし、それが手に入らないような状況に突然なったりしたら、大変です。例えば、アルコールががその原因物質の場合、近くのお店が思いがけず閉まっていたような時です。その際、かなり遠くまで買出しに行くようならば、その原因物質に対する精神的な依存が認められます。場合によっては、その時点で、もはや自力ではそれへの欲求をコントロールし難い、依存症のレベルになっている可能性もあります。

■身体的な問題や症状
薬物依存症の原因物質は、一般にそれが、ある一定期間、過量に体に入ると、体内の生理機能がある程度変化します。具体的には、その物質への耐性が生じる事で、その物質の効き目が落ちてきます。以前のような効果を得るには、その使用量を以前よりかなり増やす必要があるかもしれません。例えば、アルコールの場合は、いわゆる酒に強くなった人です。その際は、決して喜ばしい事ではなく、アルコールに対して身体依存が形成された…と、理解しておきたいです。

また、もしその原因物質の摂取を突然中断すれば、手先の震えや頭痛など、何らかの不快な身体症状が出るかもしれません。いわゆる退薬症状ですが、もしそれがはっきり出現していれば、それだけその原因物質への身体依存が形成されたとも言えます。そしてもう1つ、退薬症状に関して、抑えておきたいポイントとして、その当人の健康面や身体的な状況によっては、命に関わる問題が出てくる事も数自体は少ないものの、時にあります。といった事もあるので、身体依存がはっきり形成されている人は、それを止める気になって、突然そうすると、上記のような危険もあり得ます。理想を言えば、すぐ緊急対処できるような、入院環境下などで、その使用をストップすることが大変望ましいです。
 

薬物依存症はうつ病などもまねきやすい

薬物依存症はそれ自体が、うつ病など、他の心の病気のリスク要因です。実際、そのおよそ半数に、うつ病など他の心の病気の可能性があります。それはもともと、うつ病などを患っていた方が、その辛さを癒すために、その手段を飲酒などに求めた場合もあります。その一方で、過度の飲酒など、依存症の原因物質が脳機能の一部を変容させたことで、うつ病などが出てくる場合もあります。いずれにせよ、その原因物質は、同時に患っている、うつ病など他の心の病気の、その症状のレベルをより深刻化させやすい…といったことも、薬物依存症に関する問題点の一つです。

以上、今回は薬物依存症を詳しく解説しました。最後に改めて強調しますが、依存症は自力ではとても抜け出せないもの、専門家の力がどうしても必要な事は、今回の、大事な大事なポイントです。なお薬物依存症の治療に関しては「薬物依存症の治療法…入院治療・薬物療法・自助グループなど」をご参考にしてみてください。

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