「不育症」に最適な治療とは?
院長の杉先生。日本ではまだ珍しい不育症専門のクリニックを開業されています
今回は日本では数少ない不育症専門クリニック「杉ウイメンズクリニック」を取材してきました。杉ウイメンズクリニックは分娩間際まで不育症管理を行なう唯一の不育症専門クリニック。先生は以前から「不育症友の会」での講演など幅広くご活躍されていましたが、病院ドクターということもあり多忙のため、取材を控えていました。
今回は今年5月に新横浜で開業されたとのことで、今回の取材をさせて頂くことができました。流産をされてつらい思いをされている読者の方も多いと思いますが、そんな皆さんに福音となる取材になったと思います。以下で先生へのインタビュー内容をまとめてご紹介します。
不育症を専門にしたきっかけは?
私は慶応大学の産婦人科学の研究室に在籍しておりましたが、その関係でアメリカに留学しました。その時にマッキンタイヤー博士に出会い、生殖免疫と出会いました。
研究室ではボスであるマッキンタイヤー博士に新しいリン脂質抗体を見つけろという指令を頂きました。その時には「そんなこと、できるのかな?」と半信半疑でしたが、幸運にも見つけることに成功しました。その成果を血液国際学会でも認められ、学会賞を受賞するすることができました。今、診療に活かされているのはこれらのアメリカで開発した技術です。
今回の開業の理由は?
アメリカから帰国して東海大学で産婦人科勤務となったのですが、不育症外来も担当していました。徐々に名前を知られるようになり、全国から患者さんが来院されるようになり、東海大学病院のアクセスの悪さがとても気になるようになってきました。患者さんによってはアクセスの悪さから来院できない、通院できない方が増えてきて、これではいけないなと思うようになってきました。
また、私自身も横浜の自宅からの通勤をつらいなと感じるようになってきたので、アクセスの良い場所に開業しようかと思うようになりました。
私が10年ほど前に日本で初めて本格的に導入したヘパリン在宅自己注射療法がかなり普及し、今や大学病院でしか出来ない特殊な医療では無くなったことも、大きな要因です。
流産や不育症について解説を……
近年はそもそも流産が増えています。それは単純に結婚年齢の上昇に伴い、出産年齢も上昇していることが大きな理由だと思われます。流産率は35歳で20%程度、37歳になると30%程度です。それだけでも流産を繰り返す率が年齢とともに上がることが容易にわかるかと思います。
また、妊娠検査薬ではわかるけれどまだ胎嚢も確認できないような時点での、ごくごく初期の流産を「化学流産」と言いますが、この時期を妊娠のカテゴリーに含めてしまったがために、変にナーバスになってしまった背景もあるようです。流産に過剰な意識が向けられてしまったきらいもあります。そういうことを理解しつつ、不育症という疾患を理解して頂ければと思います。
不育症の基礎知識については著書を出しているので参照して頂けるとよいかと思います。
治療法の有効性について
実は不育症の方の85%は無事に出産しています。よって、不育症かもしれないと思った段階で早めに検査だけでも来て頂ければ、相当高い確率で治療がうまくいく可能性があります。
不育症の治療は検査による正確な診断と後は妊娠後の出産までのケアが大切です。不妊専門医は妊娠までが仕事ですが、私は妊娠からが勝負となります。
先生の治療におけるこだわりは
診察室の横にあるラボの様子。これによって、迅速で確実な検査が行えるようになりました
我々のこだわりはやはり検査の部分です。血液凝固系の検査は通常の場合、採血したら室温でしばらく放置されてしまいます。これは実をいうとまったく検査の意味をなさないのです。特に血小板の検査は直後に行なうしか方法がありません。よって診察室の横にラボを作りました。
血液を採集したらできる検査は即検査を行う。そして、すぐに検査できないものも血漿分離後、急速冷凍し、血液中のたんぱく質を守ります。そして、検査会社に提出する方法をとっています。
このようにスピードが肝心な検査なのでこの部分には力を入れていますし、このクリニックでしかできない検査もあります。
我々は正確な検査と診断が妊娠を成功に導くと考えています。
それから我々は上記のラボを持つことにより、通常、大学病院では3回通院してもらって検査していた内容を1日で済むように効率化を図りました。これだけでも患者さんへの負担がかなり減ったのではないかと思っております。
クリニックでの不育症治療の費用は?
4D超音波装置。胎児の様子が立体的にわかります
当院の検査は基本的に自由診療です。大体6~7万円程度と思っておいて頂けるとよいと思います。この費用で不育症に関連するほとんどの検査が出来ます。
アメリカでは30万円ぐらいかかりますので、それと比べるとかなり割安に設定しているつもりです。
医療連携はどのようにされていますか?
ご存じの通り、不育症に関しての治療を専門に行っているクリニックはどこにもないので関東圏の主な大学病院や不妊専門クリニックとは連携を行っております。特に東京と神奈川県の医療機関とは密接な連携をとっております。もちろん、私が所属していた東海大学からの紹介もあります。
最後に先生からのメッセージを一言
不育症、習慣性流産についての情報に関してはちゃんとした情報が少ないので、いかがわしい検査、治療などの情報に引っかからないようにしてほしいなと思います。
そのためにも私は1996年からずっと不育症学級を毎月実施しております。もう5000人以上の方が参加されていると思います。そして今年、その学級の内容をまとめた著作を出してご好評頂いております。ぜひ、きちんと読んで頂きたいなと思います。
不育症学級(杉俊隆 著)
tinyurl.com/ybuonyo
インタビューを終えて
不育症・習慣性流産については私も今まで色々と本を読んだりしましたが、なかなか難しく理解しづらい部分がありましたが、杉先生のお話を伺っているとすっと理解が深まりました。
杉先生のお話では以前、日本の不妊関連学会や産婦人科学会では「不育症」という領域はなかったそうです。だからセッションも「その他」という分類だったそうで、最近不育症のカテゴリーが出来てきて、ようやくだなと感じられているようです。
新しい分野を切り拓くというのは理解を得られるまでに時間がかかるものなのだなと改めて感じた次第です。妊娠・出産に至るまでの道のりに立ちふさがる流産。その大きな壁を超えるための専門クリニックが出来たことは日本の産婦人科医療にプラスだと感じました。
最後にこの場をお借りして、診察後のお疲れの時に快く取材を受けて頂きました杉先生に厚く御礼申し上げます。
関連サイト
・杉ウイメンズクリニック