心不全そのものを外科治療、つまり手術で治す方法には、まだ多くの課題があります。近年の臨床研究の成果で、手術で治せるものが次第に明確になって来ています。わかりやすく解説しましょう。

慢性心不全の原因疾患の手術・治療法

心不全の原疾患を治せば心不全もかなり解決することはよくあります。図は虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術。

心不全の原疾患を治せば心不全もかなり解決することがよくあります。図は虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術

慢性心不全の原因となっている病気を手術で治せることは多いです。たとえば弁膜症の場合は弁の形成や人工弁置換で、狭心症の場合は冠動脈バイパス手術やカテーテルによるPCI治療で改善が図れます。

心筋梗塞後の心不全であれば、状況によって僧帽弁を形成したり、左室の壊れた部分を切除・形成することで改善します。

収縮性心膜炎では硬くなった心膜を切除することで心臓は回復します。


慢性心不全の手術・治療法

左室形成術の一例です。大きく拡張した左室では、左室の悪い部分を切り取るか小さくまとめることで、左室全体のパワーアップが図れます

左室形成術の一例。大きく拡張した左室では、左室の悪い部分を切り取るか小さくまとめることで、左室全体のパワーアップが図れます

慢性心不全自体の手術の代表的なものとして「左室形成術」が挙げられます。テレビなどで有名になったバチスタ手術はその一つです。

心筋梗塞後の心不全では、梗塞で壊れた左室壁を形成して、壊れていない心筋がフルに力を発揮できるようにすることで、心機能の改善を図る左室形成術や弁形成術、あるいは両室ペーシングなどを適宜用いて予後を改善することができます。

心移植や人工心臓などに頼らずとも、かなり生きることができるようになりつつあります。特に日本では心移植が遅れた経緯から、こうした心不全に対する手術、たとえばバチスタ手術に代表される左室形成術等が一部施設で発展し、世界のトップレベルにまでなっています。

ただし軽症の場合は効果が十分上 がらなかったり、逆に重症過ぎると手術のリスクが高くなることがあり、経験豊かな専門家による慎重な検討が大切です。重症心不全研究会の全国データ集計でも多数の患者さんを救命できているのに内科の先生方にその実績が知られておらず、助かる患者さんが助けられずに……というケースが見られます。心不全で困ったらセカンドオピニオンを左室形成術の専門家にも求めると良いでしょう。


補助循環(人工心臓)による慢性心不全治療

「補助循環」というのは、ある種の人工心臓です。かつては心臓移植までのつなぎのために使われましたが、最近発展を遂げ、実用の領域に入っています。心臓移植が受けられない患者さんを中心に、補助循環で一生過ごすという使い方も出てきているのです。

かつてはロケット科学か人工心臓かと言われるほど難問であった人工心臓ですが、近年大きな展開を遂げました

かつてはロケット科学か人工心臓かと言われるほど難問だった人工心臓。近年、大きな展開を遂げました

かつては補助循環の機械本体そのものが両手サイズほど大きく、かつその駆動機械も海外旅行用のスーツケース大でした。しかし最近は機械本体も手のひらに 乗るサイズとなり、体内に埋め込む形で患者さんの苦痛が減り、駆動機械もベルトに付けられるサイズになり便利・快適になりつつあります。機械の進化に加え、使用ノウハウが蓄積され、心移植を待つのも病院内ではなく、補循環を取りつけて自宅でかなり普通に生活しながら待つことができるレベルに達しつつあります。

血栓や脳梗塞、ばい菌による感染、出血など、まだまだ課題は多いものの、今後の展開が期待されます。しかしながらこうした人工臓器に頼るより手前の段階で、患者さんご自身の心臓を守りうまく活用することがベストであるのは言うまでもありません。


両室ペーシングなどによる慢性心不全治療

両室ペースメーカーの本体です。これが左室の2か所を刺激して円滑で効果的な働きを助けます。

両室ペースメーカーの本体です。これが左室の2か所を刺激して円滑で効果的な働きを助けます。高度な機能を持ちながらずいぶん小さくなりつつあります。

両室ペーシングという、左室の2か所にペースメーカー刺激を加えて左室の動きをスムースにする方法も一部の患者さんで有効。この両室ペーシングを他の治療法と併用したり、単独で使用したりして、患者さんの予後改善の努力をしています。

さらに呼吸マスクを使って口から肺にまで圧をかけ、心不全時の肺の状態を改善する持続的気道内陽圧呼吸「CPAP」や「BIPAP」「ASV」などでも進展があります。


心移植による慢性心不全治療

心移植は日本でも制度が整いましたが、ドナーが極めて少なく、移植を受けることができても長期間の免疫療法が必要で、課題が多いのも事実です

日本でも制度が整った心移植。しかし、ドナーが極めて少なく、移植がなかなか受けられないという問題は解決されていません

心不全の治療の最終手段として、心移植(心臓移植)があります。心移植は元気な良い心臓を植え込むため、患者さんは大変元気になられますが、
  • 心臓を提供下さるドナーの不足
  • 拒絶反応
の2つの問題点があります。

拒絶反応については、この20年余り、新しい薬(拒絶反応を抑える免疫抑制剤)の進歩で、長期の成績がかなり改善しました。今後ますますの発展が期待されます。

一方でドナー不足は深刻なままです。世界的にも不足状態が続いていますが、脳死に対する意見や哲学が異なる日本では一層深刻で、補助循環を装着して移植を待っておられる患者さんの待ち時間は1000日近くになっており、大変厳しい状況と言えます。今後、よりきめ細かい啓蒙活動とともに、移植しなくても良い代替治療の開発が求められています。

心臓移植に変わる代替治療の方法が、次に解説する再生医療です。


再生医療による慢性心不全治療

再生医療は近い将来、心不全の治療として役立つものになるでしょう。

再生医療は近い将来、心不全の治療として役立つものになるでしょう。

将来の心不全治療の方法として、再生医療の応用が期待されています。心臓の筋肉は一度壊れると二度と戻って来ません。

そこである種の幹細胞(かんさいぼう)を左心室の壁の中に注射したり、表面にシートの形で置いたりすることで、心筋細胞を作る方法や、ホルモンを出させたり、あるいは血管を増やしたりすることで、左室のパワーアップを図るという試みが世界的にされています。

これまでのところ、骨髄単核球細胞(骨髄の中にある元気な細胞で血管を創るホルモンを出します)や骨格筋芽細胞(手足の筋肉などにある、「種」のような細胞で運動して筋肉が増えるのはこの細胞のおかげです)などが試みられ、ある程度の成果が見られましたが、患者さんの予後を大きく変えるほどの レベルには至っていません。また血管を創るたんぱく質たとえばbFGF(ビー・エフジーエフ、血管や骨などを増やす、成長ホルモンの一種です)などを用いた血管新生治療も研究が進みつつあります。

夢の細胞と言われるES細胞(増えてどんな臓器にもなれる、万能細胞です)や iPS細胞(体の細胞から人為的に創りだした万能細胞です)は大きな可能性を秘めていますが、安全な実用化はまだこれからの課題です。

これらを踏まえてさらに優れたものが開発中で、いずれこの再生医療は心 不全の治療の中で大きな位置づけを持つことが期待されます。


註: 高額療養費制度については「急性心不全の治療」のページ末尾をご覧下さい。

参考サイト: 心臓外科手術情報WEBとくに心筋症・心不全のページ
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