- 心不全の原因の治療
- 心不全の悪化因子を抑え込む治療
- 心不全そのものの治療
慢性心不全の原因の治療
原因疾患の治療は大切です。たとえば僧帽弁閉鎖不全症による心不全では、弁をきちんと治すことが最も根本的かつ有効な治療となります
■弁膜症や先天性疾患がある場合
僧帽弁という部分の狭窄症や閉鎖不全症などがある「弁膜症」や、心室中隔欠損症と呼ばれる生まれつきの心臓の穴がある場合は、手術治療や薬による治療を行います。
■狭心症や心筋梗塞がある場合
狭心症や心筋梗塞など、冠動脈の狭窄や閉塞の病気がある場合は、薬やカテーテルによる血管形成(PCI)、冠動脈バイパス手術などを行います。
■心筋症や心膜炎がある場合
心筋症が原因の場合は、心筋をできるだけ守るような薬を使います。収縮性心膜炎など、心膜が原因の時には必要に応じて心膜を手術で切除することもあります。
■高血圧がある場合
高血圧がある場合は、血圧を下げるための降圧薬や利尿剤を使用します。
上記のような心臓や血管の病気には、ここに書いた治療法だけでなく、適切な食事療法・運動療法も大切。生活の中からできた病気ですから生活そのものも治すわけです。貧血などの病気が原因の場合は、さらに遡って、貧血を招いている病気自体を治療することが大切。たとえば胃潰瘍の出血が貧血の原因なら、その潰瘍を治し、また鉄剤を用いて貧血を治します。
適切な心臓リハビリは心不全を改善します。しかしやりすぎたり方法を間違えると有害な時があり医師らの指導を守って下さい
慢性心不全の悪化因子を抑えこむ治療
慢性心不全は、悪化しないようにする治療も大切。主な方法は以下の通りです。■肥満解消・心臓リハビリ
心不全が軽い場合は、心臓リハビリを医師の指導下に行うのが有効。もう少し重い心不全の場合は、心臓リハビリ施設で運動します。肥満は心臓の負担になるため食事療法も併用して体重減少に努めます。
■禁煙・禁酒
喫煙は血管を締めつけたり動脈硬化を進めたりするので、心筋梗塞などのリスクを悪化させます。禁煙も大事な治療のひとつです。大量のお酒も心臓の筋肉に障害を与えます。禁煙や減酒は決意や決断が必要ですが、ある意味、もっとも手っ取り早く実行できる有効な治療です。
■塩分摂取量の管理
食事のとき塩分を摂り過ぎると多量の水分が体内に残り、その結果、心不全を悪くしてしまうことがあります。塩分は食べ物の中にさまざまな形で含まれているので、なるべく京風の薄味を目指すことと、栄養士の指導を受け、毎日の献立の中で塩分を減らすようにすることが有効。塩分調整ができてい るときはお茶・ミネラルウォーターなどの水分は比較的自由に飲めます。なおスポーツドリンクには塩分が入っていることが多いためご注意を。
註:塩分摂取量の例をいくつかお示しします。意外に多いものです。
ラーメンなども塩分を多量に含みます。うまく塩分を減らしながら食事を楽しむためには、上手な食べ方、選び方も大切
- 塩鮭1切れ(80g) 約4.6g
- 梅干し1個(10g) 約2g
- バター大さじ1(13g) 約0.2g
- 食パン1枚(60g) 約0.8g
- 天ぷらそば・山かけそば・月見そば 約6g
- ざるそば 約3g
- ラーメン 約4g
- みそラーメン 約6g
- カツ丼 約4.5g
- サンマの塩焼き(しょうゆはかけない) 約1.5g
- 豚肉のしょうが焼き 約3g
血圧や体重は毎日測ることが安全上勧められます。できれば毎朝起きぬけにと時間を決めておくと良いでしょう
安全のために、毎日同じ時間帯たとえば早朝などに体重を測ることをお勧めします。起きぬけに血圧を測り、引き続いて体重測定、そして手帳にメモ、というのを習慣にすると理想的です。体重が前日より1kg以上増えているときは、水分や塩分が貯まっていると考えて差し支えありません。つまり要注意の状態です。
■その他、日常の健康管理
慢性心不全をお持ちの患者さんは、ちょっとした風邪、過労、ストレスが引き金になって急性心不全が起こることがよくあります。また長時間の入浴や熱いお湯への入浴なども同様。そのためこれらの引き金もなるべく予防することが望ましいと言えます。
薬による慢性心不全の治療法
慢性心不全には、上記のほかに、薬による治療法(内科的治療法)と、手術などによる治療法(外科的治療法)があります。ここではまず、主な薬をご紹介しましょう。いくつかの薬がありますが、より効果を上げるために複数の薬を組み合わせて使うことも多いです。心不全に効くお薬は何種類もあります。それぞれの特徴を踏まえて、その患者さんにベストの組み合わせを考えて行くことが大切です
尿を多めに出すことで体内の水分を効果的に減らし、心不全の悪化を防ぎます。代表例としてループ利尿剤やサイアザイド系利尿剤、そしてカリウム保持性利尿剤があります。時間的余裕がある軽症例では内服薬として、重症例では静脈注射などで投与されます。
血液中のカリウムが減りすぎると不整脈が出ることがあるため、カリウム保持性利尿剤たとえばスピロノダクトンをループ利尿剤たとえばフロセマイドと併用します。またこのスピロノダクトンは心臓を守る作用があり心不全の患者さんの寿命を延ばすという利点もあります。
(註:ここに記載しているお薬の名前は正式名称です。商品名とは異なりますのでネットなどで調べるか、主治医あるいは薬局で質問されると良いでしょう)
■体内の循環調節ホルモンを調節する薬
次に、レニン‐アンギオテンシン系と呼ばれる体内の循環調節ホルモンを調節する薬が治療に使われます。大きく「ACE阻害剤(エースそがいざい・アンギオテンシン変換酵素阻害剤)」と「ARB(アンギオテンシンII受容体拮抗剤)」の2種類があります。
ACE阻害剤は心臓を助けて症状を軽くし、患者さんの寿命を延ばす利点があります。体内の水分を減らし、血管をリラックスさせて心臓を助け、さらに心臓の筋肉を守る作用もあります。私が医師になりたてのころ、素晴らしいお薬が出たと皆で感心したのを覚えています。弱点として咳がでること がある、血圧が低くなるなどの場合がありますので、それらを勘案してうまく使います。
ARBはACE阻害剤の親戚のような存在で、同様の作用と利点があります。ACE阻害剤と比べて咳が出ないため、一部の患者さんでは重宝されています。より強い効果をもとめてACE阻害剤と併用することもあります。
■アドレナリンを抑える薬
ベータブロッカーは頑張りホルモンをブロックし、心臓を消耗から守り、パワーアップを図れるのです
ジゴキシンは強心剤ジギタリスの一種ですが、その強心作用は弱く、現在は強心剤としてよりも、心房細動対策の軽い薬としてつかわれます。
■血栓を防ぐ抗凝固薬
ワーファリンは血栓ができるのを予防してくれます。効果的ですが、それだけにきちんと使う必要があります
近年、NOACと総称されるお薬が活躍するようになりました。薬理名でいえばダビガトラン、アピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンその他があります。ワーファリンに近い効果があり、量の調整やINRの血液検査が簡略化できるため好評です。現時点で機械弁には使えませんのでご注意を。
これらの薬は、体調が良くなったからといってご自分の判断で服用を止めると心不全や血栓などが再発することがあり危険です。必ず医師の判断をもらうようにしましょう。またそれだけ信頼できる主治医を持つことも大切です。
手術などの外科的治療法に「慢性心不全の治療法 (外科手術・再生医療)」をご覧下さい。
参考サイト: 心臓外科手術情報WEB と 心臓外科患者さんのためのワーファリン情報サイト