使用済みインプラント、別人に使い回しの疑い
愛知県の豊橋市歯科医師会は19日、厚生労働省内で記者会見し、同市内の歯科医院がインプラント(人工歯根)治療で、一度使用した後に抜けるなどして回収したインプラントを、別人に再使用している疑いがあると発表した。(読売新聞)実は盲点だった使用済みインプラント
インプラントはチタン製が一般的
■入れ歯
歯茎の形態は千差万別、他人の入れ歯など合うわけがありません。
■被せもの
形は似ていても、被せる土台の形は一つとして同じものはなく、また歯と歯の隙間や歯の大きさ、噛み合わせなどその人にあったオーダーメードのため、再利用できません。
■インレー(はめ込みもの)
既製品のようなものは存在しません。それぞれの歯に削った部分合うように一つ一つ型を取り、ぴったり合わせて作るこれもオーダーメードです。
■樹脂の詰め物
埋め込む前は粘土状でも、固めてしまうとカチカチになるため、削り取るしか取り出すことができません。そのため再利用できません。
一般的な歯の治療では口の中に装着するものといったらほとんどがオーダーメード中心で、既製品といえば、僅かに歯の根に土台作る際に使用する「ポスト」と呼ばれるネジのような心棒があるだけです。でもこれは外れても詰める際に使用した樹脂と一体となっていることが多く、コスト的に安価なため、使い回すことは現実的ではありません。
今回疑惑となったインプラントは、メーカは多いものの多くが純チタンを切削加工などをして作った既製の規格品。今回の使用済みインプラントというのは、何らかの原因でインプラントが骨と結合することができなくなってしまい抜けたり、抜いたりした根の部分に使われたインプラントのことだと思います。この場合比較的綺麗に抜けることがあります。
もしメーカーが同じで、長さや太さなどの規格が同一であれば、植え込む手術をする際に使用する器具もそのまま使用できるため、さまざまな問題を無視すれば、再利用という道があったということです。
インプラント本体だけはオーダーメードではなかった。これこそが盲点だったのです。但し規格といえども種類はあるため、次から次へと使い回してゆくことは、かなりの手術数が無ければ難しいと考えられます。
インプラント再利用の問題点は?
再利用の一番の問題は感染リスクです。金属であれば腐食でもしていない限り、見た目は同じように見えますが、失敗したインプラントというのは、歯周病などの細菌にまみれた状態です。菌を殺す高圧蒸気による滅菌を行なえば、理論的には無菌状態になると考えられますが、金属表面の表面形状が腐食により劣化していたり、組織の一部が残っているようであれば、十分滅菌が行なわれないなどの可能性が高まります。仮に完全に無菌だったとしても、高額な支払いをしたのに製造メーカーも禁止している他人に一度埋め込まれたものの再利用は、倫理的問題が残るでしょう。
インプラントを使い回しの疑惑が起こったのは、多分これが日本で最初の事例ではないでしょうか? ただこのケースは大変特殊なケースです。歯科医の中ではたださえインプラントは感染対策に十分注意が必要なので再利用なんて「あり得ない」「考えもしなかった」という声しか聞こえてきません。
今後はインプラント手術の前に、そのインプラントが新品であることを確認することが一般的になっていくかもしれません。